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【連載】iPSの世界へようこそ ~細胞ビジネスを読み解くヒント:基礎知識編

全3回でお送りする「iPSの世界へようこそ ~細胞ビジネスを読み解くヒント」。2007年に山中教授が初めてiPS細胞を作製したときはニュースに引っ張りだこでしたが、現在どのような研究が行われているのか知らない人が多いのではないでしょうか。

第1回では、iPS細胞の基礎知識編として、そもそもiPS細胞にはどのような価値がって、どこまで研究が進んでいるのか、という点を分かりやすく解説していきます。

 

 

1.iPS細胞はなぜ注目されているのか

iPS細胞は(induced pluripotent stem cells)の略で、日本語では人工多能性幹細胞と呼ばれ、文字通り人工的に様々な体の細胞になる能力を持つ細胞です。よく比較される細胞としてES細胞がありますが、ES細胞との大きな違いは、iPS細胞が何から作られているかという点です。

iPS細胞よりも以前に研究が行われていたES細胞は、人の受精卵を材料として作られており、生命を傷つけているのではないかと倫理的な議論が行われていました。一方でiPS細胞は、人の皮膚細胞から作ることができ、倫理的な問題が少ないと言われています。

少し話が脱線しますが、皆さんはなぜiPS細胞の「i」だけが小文字なのかご存知ですか。実はこれには非常に深い理由があった…というわけではないのです。iPSの語呂が何かに似ていると思いませんか。

そう、iPodです。これまで日本人が初めて見つけた細胞や遺伝子は、ネーミングが良くなく、その後にアメリカなどの研究者がつけたセンスのいい呼び名が一般的に使われるようになってしまうことが良くあったそう。そこで山中教授たちは、考えに考え抜いて、当時イケていたiPodを真似してiPSと「i」を小文字にした名前をつけたそうです。

ただ、iPS細胞としてここまで世界で浸透しているのですから、戦略としては非常にうまくいったのではないでしょうか。

 

2.iPS細胞の樹立と分化誘導

話を戻して、では、実際現場ではどのようにiPS細胞が作られて、様々な細胞に生まれ変わっているのでしょうか。

人の皮膚からiPS細胞を作製する方法はいくつかありますのが、最も有名なのは、山中ファクターと呼ばれる4つの遺伝子を人から採取した細胞に導入することで樹立(初期化、iPS化)する方法です。山中ファクターとあるように、初めて山中教授によってiPS細胞が樹立された際に使われた方法です。

その後、こんどは初期化されたiPS細胞を狙っている対象の細胞や臓器などへ変えていくことになり、これは分化誘導と呼ばれます。

例えば神経細胞の場合、まずiPS細胞から幹細胞へ分化し、その後前駆細胞、終末分化細胞へと分化。分化誘導の方法は分化させたい細胞によって大きく変わりますが、分化誘導がうまくいったかを計る指標として分化率や安定性が挙げられます。

分化率は分化誘導を行った際に何%の細胞が求めている細胞になったか、安定性は分化誘導させたそれぞれの細胞が持つ機能が一定であるかということを示しています。

研究機関はこういった指標が高い細胞を作れるように日々研究を行っており、現在は50%ほどの分化率が出せれば非常に高いと言われています。

【iPS細胞の樹立~分化誘導のフロー】

参考:iPSポータル

 

3.iPS細胞を用いた再生医療と創薬

iPS細胞の利用用途大きく2種類ありますが、よく耳にするのは再生医療だと思います。

例えば自分の皮膚からiPS細胞を樹立して、そのiPS細胞から肝臓へ分化誘導することで、拒絶反応なく疾患を患った肝臓に移植する、ということが可能になります。

ただ、iPS細胞から作った細胞を人体に移植をするには安全性の確保が非常で重要なため、「再生医療等安全性確保法」などの法律による規制が強く、営利企業の参入ハードルが高いのが状況です。

そのため、現在は、再生医療ではなく創薬研究用にiPS由来の細胞を作製して販売するというような形で参入している企業が多くなっています。

創薬研究での利用イメージとしては、例えば肝臓の疾患に対して、どの治療薬が効くのかを研究するために、普通であれば患者さんの肝臓から採取した細胞を培養させて肝臓細胞を増やし、治療薬を当てていくのですが、iPS細胞を利用した場合、肝臓ではなく皮膚の細胞からiPS細胞を樹立し、分化誘導することで肝臓細胞を大量に作り出すことができるのです。

その結果、患者さんに負担をかけずに疾患の細胞を作った研究を行うことが可能となるのです。また、細胞の遺伝情報を書き換える(ゲノム編集)という技術を用いると、健常者の皮膚細胞から患者さんの細胞と同じ疾患の状態が再現された細胞を作製することも。

こういった細胞を利用する研究は、実際に人へ細胞を移植するわけではないので、再生医療用途よりも参入ハードルが低く、様々な企業が参入しています。例えば、iPS細胞をビジネスとして展開する企業として最も代表的な富士フイルムでは、心筋細胞や血液細胞、肝臓細胞など様々なiPS由来の細胞を創薬研究向けに提供しています。

 

4.近年のiPS細胞研究の事例

このようにiPS細胞から分化誘導された様々な細胞を用いて製薬企業は創薬研究などを行っており、大量な細胞が必要なスクリーニングと呼ばれる実験などで活用が一般的になってきています。

また、iPS細胞のメリットとして、患者数の少ない希少疾患の細胞を大量に作製することができる点もあります。これまでFOP*のような希少疾患は患者数が少なく、研究に必要な細胞を患者さんから集めることが非常に困難でした。しかし、iPS細胞の誕生で、患者さんの皮膚細胞、もしくは健常者の皮膚細胞からFOP疾患を再現した細胞を大量に作れるようになったため、スクリーニングのような研究がしやすくなりました。

*FOP・・・進行性骨化性線維異形成症。骨系の疾患で、靭帯などの軟部組織の中に「異所性骨」と呼ばれる骨組織ができてしまう病気。200万人に1人程度、国内の患者さんは約80人といわれている希少難病の一つです。疾患のメカニズムが解明できず、有効な治療法がない状態が続いていました。

iPS細胞を使ったFOP研究の事例としては、2017年に京都大学において、iPS由来の疾患細胞を用いて行っていた創薬研究でFOPに効果があるとされた治療薬を用いて、実際の人に対する治験を解すすることになったというリリースがありました。これは、FOP疾患を再現しているiPS由来の骨細胞が、従来人の骨から採取していた細胞とほとんど同じ状態を表すことができているということを意味します。
参照:iPS細胞の創薬応用で臨床試験を世界に先駆けて開始

もし今後研究がさらに進み、iPS由来の細胞が人の神経細胞と全く同じ状態を再現できると証明されれば、治験なども人ではなくiPS細胞のみを用いて行うことができるようになって、治療薬を開発するリスクやコストを大きく削減できるようになるでしょう。

 

5.最後に

第1回はiPS細胞の基礎知識として、iPS細胞の成り立ち、現状は再生医療ではなく創薬研究用途でのビジネス機会が大きいといったことをお伝えしました。iPS細胞の可能性はまだまだ計り知れないものがあり、潜在的なビジネスチャンスも大きい市場だと考えています。

第2回では、近年のiPS細胞研究の動向や研究機関だけでなく、企業も含めた最新事例などをお話しして、iPS業界についてより深く理解していただければと思いますので、ぜひご覧ください。

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久本 勇馬

久本 勇馬

VRベンチャーで社内新規事業立ち上げを経験後、 弊社に参画。デザイン思考を用いた新規事業企 画や、グローバル案件を担当。 【得意領域】再生医療、グローバルスポーツビジネス、xRなど 【趣味】サッカー、囲碁