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【連載】iPSの世界へようこそ ~細胞ビジネスを読み解くヒント:研究動向編

前回は、iPS細胞が注目されている理由から、現在どこまで研究が進歩しているのかという視点でお伝えしました。
そういった研究の進歩により、近年は大学などの研究機関はもちろん、企業も共同研究として積極的にiPS細胞領域に参入しています。

第2回では、3つの代表的な事例から、企業がどのようにiPS細胞研究に関わっているのかについて読み解いて行きましょう。

 

 

1.市場全体の動向

前回もお伝えしたように、iPS細胞は体のどんな細胞にも変化させることができる万能細胞として知られ、利用方法としては再生医療から始まりましたが、現在は創薬活用の市場が盛り上がっています。
iPS細胞の創薬領域での市場規模は、2015年時点で1000億円以上。現在はさらに大きな市場になっていると想定されます。
一方、再生医療用途は2020年に950億円程で、その後2030年には1兆円に達するとされており、長期的には非常に大きな市場になると考えられます。

参照:NTTデータ経営研究所

 

2.【武田薬品工業×京都大学】6つ疾患に対してiPS細胞を用いた共同研究を開始

では、実際の共同研究事例を見てみましょう。1つ目は武田薬品工業。武田は、2015年からCiRAと「T-CiRA」としてiPS細胞技術応用に向けた10年間の共同研究プロジェクトを開始。CiRAのiPS細胞研究技術と武田の創薬研究技術というアセットを活かして、再生医療や創薬領域で新たな治療法の確立やiPS細胞の活用法を模索しています。

T-CiRAが特に注目している疾患領域は、糖尿病、がん、心不全、神経変性疾患、難治性筋疾患の6領域で、それぞれiPS細胞の応用を目指した研究が進んでいます。

では、糖尿病の研究事例を見てみましょう。

T-CiRAでは1型糖尿病(先天性)と2型糖尿病(後天性)に対して、iPS由来の膵臓細胞を用いた共同研究を実施しています。

糖尿病の国内患者数は、1型糖尿病が約10~14万人、2型糖尿病で約328万人、予備群を合わせると1千万人を超えるとも言われており、国民病の1つといっても過言ではないでしょう。

このように患者数が非常に多い疾患ですが、抜本的な治療法は移植のみとなっており深刻なドナー不足といった事態に陥っています。

そのため、再生医療の観点では、従来のヒトの臓器をそのまま移植するのではなく、iPS細胞を用いることによって、腎臓、膵臓、肝臓に分化誘導して移植することができると考えられ、研究への期待が高まっています。

また、創薬では、これまで人から取った膵臓細胞を使用するのは多額のコストがかかるとされていたのですが、無限に増殖ができる性質を持つiPS細胞を用いることで、膵臓細胞を容易に使えるようになり、新しい治療薬を開発するコスト的なハードルが下がりました。

今後、T-CiRAの研究が進めば、糖尿病に対する新たな治療法が確立され、治らない病気されていた糖尿病が治せるようになる日が来るかもしれません。

参照:T-CiRA (タケダ-サイラ共同研究プログラム)

 

3.【日本たばこ産業×京都大学】 遺伝性希少疾患の治療薬開発にiPS細胞を活用

日本たばこ産業(JT)は、2019年にCiRAとの共同研究として、常染色体優性多発性嚢胞腎(ADPKD*)という遺伝性疾患に対するiPS細胞を活用した治療薬の開発を行うと発表しました。

ADPKDは、現状進行を遅らせる治療として、トルバプタンという薬が2014に保険適用となりましたが、根本的な治療薬はまだ存在していません。

そのため、この研究では、患者の血液や皮膚の組織から樹立したiPS細胞を腎臓に分化誘導させて疾患メカニズムを解明し、どういった治療薬に効果があるのかを突き止めることを目的としています。JTはこれまでにも治療薬の候補を開発しており、その治療効果を検証する実験としてiPS細胞が用いられます。

*ADPKD・・・遺伝性疾患の一つであり、腎臓に多数の 嚢胞(内部に液体を貯めた袋)を形成し腎不全となりうる難病。国内の患者数は約31,000人。患者の半数が60歳までに腎不全を患うとされています。

ADPKFのように患者数が少ない難病は、患者から対象部位の細胞を確保したり培養することが難しく、コストもかかるため、従来はなかなか研究を進めることが出来ませんでした。
しかし、iPS細胞から患者の腎臓細胞をより効率的に作ることが可能になったことが、こうした疾患に対する創薬研究が進む大きな原動力になったと考えられます。

 

4.【富士フィルム×京都大学】iPS細胞によるアルツハイマー型認知症治療薬の開発

最後に、富士フィルムの事例をお伝えします。

富士フイルムもCiRAとの共同研究として、患者から樹立したiPS細胞を用いて、アルツハイマー型認知症(アルツハイマー病)の治療薬「T-817MA」に関するバイオマーカー*の解明などを行います。

「T-817MA」は、富士フイルムのグループ会社である富山化学工業が開発したもので、病態を表している動物の細胞モデルでは高い治療効果を示すことが確認されています。本研究では、人の患者から樹立したiPS細胞を分化誘導させて神経細胞を作りだして、薬の有効性の指標となるバイオマーカーの特定などを行っていきます。

今後研究が進めば、治療薬や新たな治療法が確立され、高齢化の影響で今後確実に患者数が増えていく言われるアルツハイマー病治療の大きな進歩になると考えられます。

*アルツハイマー病・・・進行性の脳疾患であり、記憶や思考能力がゆっくりと障害され、最終的に日常生活の最も単純な作業を行う能力が失われていく難病。高齢者が発症しやすく、高齢化に伴って国内の患者数は2020年に167万人、2025年には220万人にまで到達すると言われており、今非常に注目を集めている疾患です。

*バイオマーカー・・・血液や尿などの体液や組織に含まれる、タンパク質や遺伝子などの物質で、病気の変化や治療に対する反応を見るための指標となるもの。バイオマーカーの量を測定することで、病気の存在や進行度、治療の効果を把握することができるようになります。

 

参照:SEED PLANNING

 

5. 最後に

これら3つの事例から、企業もiPS細胞を用いて難病や希少疾患の治療薬を開発しようと、研究機関とタッグを組んで研究を進めている現状が分かっていただけたのではないでしょうか。

今回挙げた企業は、比較的医療領域での実績がある企業が多かったですが、一件iPS細胞の研究とは関係がなさそうな企業が参画している事例も実は数多くあります。

第3回では、そういった他業界からのiPS細胞市場への参入や、将来的なビジネス展開と、今後の参入余地についてお伝えしたいと思いますのでぜひご覧ください!

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久本 勇馬

久本 勇馬

VRベンチャーで社内新規事業立ち上げを経験後、 弊社に参画。デザイン思考を用いた新規事業企 画や、グローバル案件を担当。 【得意領域】再生医療、グローバルスポーツビジネス、xRなど 【趣味】サッカー、囲碁
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