全8回でお送りする「MaaSは日本社会を救うか?」。
第3回「シェアリング・自動運転のMaaS」では、MaaS 3領域の1つであるモビリティサービスを解説しました。
今回は、モビリティサービスが普及するにあたって必要な、インフラについて探っていきます。
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1.インフラ概要
インフラと聞くと、ハードで構成された充電設備を想像する方が多いのではないでしょうか?
それは間違いではありませんが、MaaSを理解するには他の視点も必要です。それはソフト面である、法規制です。
法規制は目に見えるインフラではありませんが、MaaSの普及に大きく関わる観点です。
例えば、第3回でご紹介したLuupのような電動キックボードは、2019年8月現在は公道を走ることが禁止されています。
それは日本で解禁されるのか、されるならいつになるのか、といった点を見ていくことで、MaaSをより深く理解できるでしょう。
MaaSのインフラはハードとソフトが重要
2.充電設備
重要なモビリティの一つにEVがあります。
2035年にEVの世界市場(新車販売台数)が、18年比16.9倍の2,202万台に拡大するという予測がされています(富士経済調べ)。
出典や統計の時期によって大きな差がありますが、自動車全体に占めるEVの割合が多くなってくることは間違いないでしょう。
充電スタンド
車に充電プラグを指し、給電できるスタンドです。自宅や外出先にて給電をします。
充電スタンド利用の流れ
充電に数時間が必要な普通充電と、30分でフル充電ができる急速充電の2種類があります。
普通充電は導入費用の負担が抑えられ、自宅をはじめとした長時間駐車する場所での基礎充電や継ぎ足し充電に適しています。
急速充電は導入費用が高く、電気設備容量も必要なものの、短時間で充電できるので、経路充電や緊急充電に適しています。スーパーやコンビニなどの小売店や、商業施設に設置されています。
また、アメリカでは、イーロン・マスク率いるテスラモーターズの「スーパーチャージャー」が各所に設置されています。
テスラモーターズのスーパーチャージャー
EV普及にあたって、急速充電器が整備されることは重要です。しかし、日本での普及は始まっていません。
理由の一つは、急速充電器は初期で600万円、ランニングで年100万前後と、コストがそれなりにかかるためです。
これは、単純に電気を販売するだけではペイしにくいので、電気販売プラスαで儲ける仕掛けが必要と考えられています。
急速充電器の初期・ランニングコスト
ワイヤレス充電
先ほどご紹介した充電スタンドは、基本的にEVにプラグを指して給電する仕組みです。また、自宅の充電設備は、フル充電に半日ほど必要です。
この仕組みの欠点は何でしょうか?その一つは、充電を忘れると次の日使えないということです。
通勤や旅行に行こうとしているのに、朝車に乗ったら「あっ!充電忘れた!」と気づき、車が使えないというリスクがあります。
これはEVを使うモチベーションが落ちますよね。忘れないにしても、毎日プラグを指すことは面倒で、特に雨の日でも濡れながら作業しなくてはいけないのはキツイです(ガレージがある人ばかりではないので)。
このリスク・手間を取り除くために考えられているのが、ワイヤレス充電です。(スマホでも最近はワイヤレス充電ができるものが出てきていますが、それの車バージョンですね)
駐車場の下部に設置された充電設備から充電ができる仕組みなので、当然、充電忘れのようなことは起きません。
日本のメーカーでは、ダイヘンという会社が国内メーカーとして初めてワイヤレス充電システムを発売しましたが、海外勢との争いでどうなるか分かりません。
ダイヘンのワイヤレス充電装置のイメージ図
ワイヤレス充電システム
3.自動運転向け道路
前回、日本では自動運転のレベル4が、2025年~30年にかけて商業用途で実用化するというロードマップをご紹介しました。
「官民 ITS 構想・ロードマップ 2019」の
自動運転に関するロードマップ
自動運転は、車だけで完結する技術ではありません。周囲のインフラも、自動運転に合わせてアップデートされることで、自動運転の実用化が近づきます。
自動運転普及の壁は様々ありますが、自動運転以外の車と同じ道路を走ると事故が防ぎにくいことや、道路の整備が行き届いていないことが挙げられます。
前者については、自動運転車しか走らない、自動運転専用道路なるものがあれば、人間のように不規則な運転は起きませんが、人間が乗ると運転は最適化されません。
例えば、最近話題になるような煽り運転を自動運転車がされたとき、事故が起きないように制御することは困難を極めるでしょう。
後者については、自動運転で車を制御する仕組みの一つとして、道路に引かれた白線を認識して、自分がいるレーンからはみ出さないようにする技術があります。しかし、白線が消えているような道路も少なくありません。
上記のようなことを踏まえ、想定されるケースが少ない環境において自動運転が普及していくということになります。
具体的には、一般道ではなく、高速道路で実用化が始まっています。高速道路は、一般道と比べて白線がきちんと引かれていたり、五差路のような複雑な道路が少なく、直線が多いです。
高速道路だけでも自動運転になるのは非常に便利な世の中になると思いますが、一般道の自動運転実現も強く望まれています。
4.法規制
インフラの締めくくりとして、法規制を見ていきます。
これまでは、ハードとしてのインフラをご紹介してきましたが、単純に充電設備や自動運転技術が整備されるだけではMaaSが普及しません。
2019年8月時点で、MaaSに関わる法規制を解説します。
電動キックボード
前回出てきた、電動キックボードです。
公道を走ることはできず、自治体から認可された特定の地域や、私有地に限ることもお伝えしました。
超小型モビリティ
まず、超小型モビリティをご存じない方もいらっしゃると思いますので、基礎を確認します。
超小型モビリティとは、自動車よりコンパクトで小回りが利き、環境性能に優れ、手軽な移動が可能な1人~2人乗りの車を指します。
前回はトヨタのコムスを紹介しました。
「環境性能に優れ」とありますので、基本的にガソリン車ではなくEVになります。
EVですし、車体も小さいのでスピードも出ない代物ですが、何がいいのでしょうか?
「車体が小さい」「スピードが出ない」というデメリットにも見える点が、メリットでもあります。
核家族化が進む現代において、4人以上が同時に乗って移動することは少ないのではないでしょうか?4人乗らないのに、4人乗りを利用するのは、当然コストが必要以上にかかります。都内であれば駐車スペースを確保するのも大変です。最小定員で利用することで燃費が上がり、コストを抑えられるということです(場合によっては、駐車場ほどではないスペースに停められる)。
またスピードが出ませんので、万が一事故になったときの被害が抑えられるとされています。
法規制についてですが、先行している他国では、16歳以上でコムスのような自動車に乗れる免許があったり、国によっては無免許でも乗れるところがあります。
国内では自動車と同じく18歳以上の普通免許を持っている人に限りますので、これが緩和されて例えば高校生が乗れるようなことになれば、すそ野は広がります。
余談ですが、2019年の国土交通省「地域交通のグリーン化に向けた次世代自動車普及促進事業」にて、運送事業者が小型モビリティを導入する際、車両本体価格の1/3を補助する補助金制度が設けられています。
第3回でご紹介した、出光はタジマモーター社の「ジャイアン」という車両を購入して、出光のガソリンスタンドで提供するという予定のため、この補助金が利用できていることと思います。
こういった後押しで、市場が形成されていけばいいですね。
今回はインフラについてご紹介しましたが、次回はモビリティサービスとインフラが融合したことで実現する「スマートシティ」について解説します。
出典一覧:
EV世界市場、35年に16倍に HVと21年に逆転と民間予測