会社名のネーミングで失敗しない方法 ~ボツ事例付き
新規事業立ち上げのコンサルティングをしている保木です。今回は「企業名のネーミング」について書いてみたいと思います。
起業や新サービスを開発する人にとって、ネーミングは悩ましいものです。
当然、会社名を決めないと登記ができないわけですが、私は納得いかない社名にしたくなかったのでギリギリまで考えました。(結果、会社名を考え始めて決定するまで、約2カ月かかりました。。)
自分の子供の名前をノリでつけないと思いますが、会社も自分で生み出すという点では同じなので、しっかり考えようと思いました。
ネーミングの流れは3ステップになり、参考になる事例やポイントを解説します。また、各ステップでは、ステラアソシエの場合はどうだったのかをケースとして挙げます。
社名をインプットする
始めはネーミングに関する知識がない状態だと思うので、いきなり考え始めるのは非効率です。まずは、どんな企業名・サービス名が世にあるのかインプットしましょう。
優れた社名がつけられたストーリー(由来)を学ぶことで、自分の中での「いいネーミング」のイメージを固めていくことができます。
インプットの仕方は2つあります。
まとめ記事を参照する
よさげな企業名は記事にまとめられているので、流し見すると効率的にインプットできます。
私は、以下のような記事を参照しました。
かっこいいと思う会社名100選(社名の由来) – かっこいい会社名と社名の由来
意外と知らない!?あの有名な会社名の由来100選(まとめ) – 社会人の教科書
好きな企業名の由来を調べる
自分が好きな語感のネーミングを調べることも勉強になります。
ヒカリエの由来
私は商業施設のヒカリエが名前として好きなので、由来を調べました。
「渋谷ヒカリエ」は、これまでにない新しい発想の高層複合施設として、オフィス、文化施設、商業施設が一体となり、街とつながり、渋谷から未来を照らし、世の中を変える光になるという意志を込めて「渋谷ヒカリエ」としました。
渋谷ヒカリエについて | 渋谷ヒカリエ/Shibuya Hikarie
シンプルですが、いい由来ですよね。呼びやすくて、語感も良いです。
Kracieの由来
似たような考え方で、化粧品メーカーのKracie(暮らし+へ)もあります。
「Kracie」という名は、「四季の変化やお客様の日々の生活の中で、商品を通じてお客様の心を晴れにする。そんな健やかで、快適な楽しい“暮らしへ”」という私たち全社員の願いを込めて命名いたしました。
クラシエの名前の由来について | お問い合わせ | クラシエ
どちらもいい由来だと思ったので、「新規事業 × ~へ(え)」のネーミングを考えたりしましたが、特に思いつきませんでした。
会社名の由来をたくさん見ると、しっかり考えられてるものもありますが、「ラテン語で笑顔という意味」みたいな、だから何なんだろう?というものも有名な会社ですら結構あります。意外と思いつきで付けることの方が多いようです。
設立趣意やビジョンからキーワードを抽出する
前提として、会社の設立趣意(「なぜその会社を起こすのか?会社の存在価値は?」といった設立背景の整理)や中長期的なビジョンがないと、まともな会社名はつけられません。
先に挙げたヒカリエやクラシエも、ビジョンからネーミングに移っていることがわかると思います。
つまり、ネーミングは「ビジョンを固める→ネーミング」という順番で考えないと、内容が薄いネーミングになってしまいます。
設立趣意・ビジョンがある状態で、その中からキーワードを抽出します。抽出することで、ネーミングに際して込めたい思いが具体的になるからです。
抽出方法は2つあります。
設立趣意・ビジョンから抜き出す
設立趣意・ビジョンに特定のキーワードが繰り返されたり、重きを置くワードがあれば、それがその会社にとって重要な要素になるので抽出しましょう。
ステラアソシエの設立趣意では、以下のような言葉が多く使われたり、重要視しています。
- イノベーション
- 日本、日本社会、日本人
- 新規事業
- 起業家
- チャレンジ
- エコシステム
ステラアソシエ設立趣意
設立趣意・ビジョンを抽象化する
先ほどは、キーワードをそのまま抜き出していましたが、文章やキーワードを抽象化します。抽象化したイメージの方が、キーワードよりもネーミングの際に応用が利くので、こちらの作業が重要です。
~ステラアソシエの場合
ステラアソシエは ”イノベーションプラットフォーム” として、常識を打ち破る事業を生み出すハブとなります。
(中略)
しかし、和を尊び、高品質を妥協なく追及してきた日本人の精神は未だ受け継がれているはず。 ブレークスルーに必要なマインドセットと行動さえあれば、世界に愛される製品をこれからも生み出すポテンシャルがあると信じます。
(中略)
そして、「千三つ」とされる新規事業を通じ、困難なことにチャレンジする素晴らしさを、これからの未来を担う若者たちに提示します。最終的に、我々にインスパイアされた人々が起業家や事業責任者となり、イノベーションの波を日本中で起こしていく。そんなエコシステムを作り上げます
上記の設立趣意を抽象化すると以下のようなイメージになります。
- 常識に捉われない、常識を壊す
- 非常識を常識にする、次の常識を作る、デファクトスタンダード
- 現在の社会の延長にない、非連続的な挑戦をする
- 大げさなことを簡単にやる
- 開拓する
- 高い視野
- 無駄をそぎ落とす、本質的、核心的、研ぎ澄まされている
- 止まらずに常に動いている(前に進んでいる、挑戦し続ける)
- 暗いものを明るくする、つまらないものを楽しくする
- 日本企業、日本社会をリアレンジする
- 未来を作る、革命、最先端、人間としての初めてをやる
- 進歩を司る
- 新規事業の全て
- イノベーションのハブ、触媒
こちらは少々難しい作業なので、ビジョンを伝えたうえでボキャブラリーが豊富な人や、視野が広い人からアイデアをもらった方がいいです。
ポイントは、一つ抽象化したワードができたら、そこから連想されるものを考えることで広げられます。
ネーミングを考える
いよいよ、抽出したキーワードからネーミングを発想していきます。
始めの方に出たアイデアは墓場行きが相場なので、まずは質を気にせず数を意識してたくさん出しましょう。そのあと、出たアイデアを足したり引いたり、捻ったりしてもがいていくと、それっぽいものが出てきます。
ネーミングには、2パターンの考え方があります。このどちらかによって、最終的に決定するネーミングが、大きく変わってくるので、どちらなのかを考えつつ発想してきましょう(最初に決めずとも、両方やってみて、しっくりくる方を選べば大丈夫です)。
語感重視
意味よりも、耳障りやリズム、覚えやすさを重視するタイプです。
サービス名はカタカナ5文字以上だと4文字に省略されるので、最初から4文字にするということがスタンダードになってきています。そのため、サービス名=会社名の企業は4文字がおすすめです。
そういった企業はBtoCサービスが多いため、消費者に覚えてもらいやすい方が、ユーザー獲得に有利なのだと思います。
例:アマゾン、楽天、メルカリ、コロプラ、アカツキ、食べログ、ぐるなび、アスクル、サンサン、リクナビ、マイナビ
こんな面白い調査結果も出ています。
「NEXTユニコーン調査」(2017年秋公表)の対象企業108社にも、4文字が多いことを教えてくれた。実際に数えてみると、108社のうち4分の1に相当する27社が4文字の社名だった。
なぜスタートアップは「4文字」が多いのか。経営者、コピーライター、言語学者に聞いてみた | BUSINESS INSIDER JAPAN
ただ、これらの企業名(サービス名)は語感・フィーリングを重視しているので、2つの言葉を掛け合わせたなど、深い意味合いはないことが多いです。
抽出したキーワードを短縮する、2つのキーワードを掛け合わせるなどして発想します。
~ステラアソシエの場合
ステップ2で「未来を作る、革命、最先端、人間としての初めてをやる、 非常識を常識にする、次の常識を作る、デファクトスタンダード」といったキーワードを抽出しました。
また、ステップ1では、「伝え方が9割」の著者でコピーライターの佐々木圭一氏が代表を務める「ウゴカス」という会社を知りました。
コピーライティングによって、商品やサービスのメッセージを伝えるということが凝縮されたいいネーミングだと思います。
それらを掛け合わせると、以下のような案が出ました(ここから出る案は、ボツになった理由付き)。
ウミダス:「ウミダスの保木です」と名乗るのは、なんかダサい
サキダツ:上記同様。かつ死をイメージしかねない(先立っちゃうの?って感じ)
また、新規事業開発のセオリーとなってきている「リーンスタートアップ」という言葉を短縮した「リーンスター」という名前も思いつきました。
新規事業だけではなく、「社会に対して無駄のない確かな価値創造を行っていく」ということも意味します。星を意味するスターも入っているので、ロゴは星が入っているイメージも付きました。
呼びやすいですし意味もそれなりなので、実は私はこれで決定しようとしましたが、創業メンバーからこのような指摘がありました。
「リーンスタートアップは、今は流行っているけどいつかは陳腐化するものだと思う。そういう寿命がある言葉は会社名にしない方がいい」
確かにと思いました。リーンスタートアップの考え方が浸透して、常識になったとき、それをわざわざ名乗るとひと昔前の会社という印象になってしまいます。
このようなやり取りがあり、時間が経つことでメッセージが弱くなる名前はやめようということで、ボツになりました。上記の少ない案を見ればわかりますが、結果としては語感重視のアプローチはあまり出ませんでした。
本当は、覚えてもらいやすくするために、短い会社名にしようと考えてました。しかし、弊社の事業内容的に、一言で表現できるサービスではないからだと思い、意味重視のアプローチに路線変更することとなります。
意味重視
前者とは異なり、意味合いを重視するタイプです。ただ、カタカナ10文字以上などあまりにも長い名前や、呼びにくい名前を避けるのは変わりません。
こちらのアプローチで名づけられているのは、以下のような会社・サービスです。
営業支援ツール(CRM)で世界トップシェアのサービス。営業の力になるという意味は分かりやすいが、若干長い。
スポーツをやる人であれば知っている、スポーツ用肌着のメーカー。
第二の皮膚的な意味でかっこいい。
「遊び場」は普遍的なものなので、時代が変わっても陳腐化しない名前。1994年にplay stationが発売されて以来、20年以上の月日が経ちましたが、色あせることはないです。(新しいハードが変わるたびに名前を変える任天堂とは、対極のスタンスかもしれません)
調べて気づきましたが、PS4になるまでロゴの色は変わっていますが、形は変わっていません。これもすごいと思います。
グーグルの持ち株会社。「この世の全ての情報を(googleに)集約する」ことをミッションとし、それはどうやって表現できるかと考えた際に出たのが、「あらゆるものを表現できる言葉=アルファベット」というすごい発想です。
また、アルファベット社のホームページのURLは「https://abc.xyz/ 」なんです。。この凄さ、お分かりでしょうか?
単にalphabetとするのではなく、アルファベットの最初であるabeから始まり、xyzで締めくくって表現しています。これを知ったとき、考えた人は天才だと思いました。
ネーミングを数百ほど調べて一番感銘を受けたのは、それを調べるために使っていた検索エンジンの親玉でした。
ステラアソシエの場合
上記のようなインプットを参考に、自ら抽象化したキーワードから発想しました。
また、作業としては、キーワード→インプット→アウトプット(最終ネーミング)という工程をしました。
キーワードで思い浮かべるものを考える(インプット)。それで出てきた単語を類義語検索するなどで、ワードをたくさん出す。そこで出たワードを、足したり引いたり、捻ったりして企業名にする(アウトプット)です。
インプットでワードを広げるときには日本語だけではなく、英語やラテン語、フランス語など語感がかっこいい言葉でも検索すると広がります。
足すときには、ワードの最初か語尾を変更するのが有効です。(ad:加える、ize:状態にする 、ling:人)
例1
キーワード:暗いものを明るくするもの、つまらないものを楽しくするもの
インプット
- 花火:一発屋感ある
- ライト:「永遠に続くライト」とかが表現できれば意味よい
- 光:安直
- アステル:ギリシャ語で星
- エストール:フランス語で星
- エーテル:空の輝きや星の動く場を指す。アリストテレスが提唱した、熱の性質を引き付け不変の天上を構成する第五元素。中二っぽい
- カンパネラ:教会塔の鐘やその音を指すイタリア語
- エスポワール:フランス語で希望。映画カイジに出てきてカイジが焼き印を入れられる「エスポワール号」を連想するので却下 笑
- ソレイユ:フランス語で「太陽」または「ひまわり」の意味 。マンション名っぽい
- アウトプット:エストーリャ(エステール+屋)、エステール
例2
キーワード:日本、日本人、日本社会
インプット:日本を象徴する言葉
- 八百万 (ヤオヨロズ)
- senko(先行・閃光)
- 子々孫々
- 祇園
- 東(日が出づる国)
- 雅、江戸、和心(ワコ、ワゴコロ)、粋
- 祭囃子 (マツリバヤシ):日本の伝統をイメージ
- はんなり:日本の奥ゆかしさを表現した淡い美しさ
- ~屋、~苑
- 日本狼 (ニホンオオカミ):絶滅した狼ですがそれにとってかわる気高い存在になる
- アウトプット:日本の古風な言葉と、新しさを組み合わせる
- 和力:男臭さやばい
- 祇園サーカス:日本の伝統を大切にしながらも新しいことに挑戦。溢れ出る劇団感
- クロリアン:クロリア+苑。ださい
- イーライツ:東・イースト+ライトで、東(日本)の光。インディーバンドにありそう
最終候補のネーミングにつながったのは、他でもないアルファベット先輩を参考にした発想でした。
「グーグルはあらゆる情報を集める。僕たちは、新規事業の始まりから最後までを導く。」
そういう思考回路で、「新規事業の全て」を表現できないかと考えました。
似たような発想で「ゼロワンブースター」という、大企業とベンチャーのマッチングをする企業がいます。「新規事業のゼロからイチをブーストする」というわかりやすいネーミングですが、少なくともここよりいい名前を付けようと、勝手にライバル意識したのでした。
キーワード:新規事業(の全て)
インプット
- ゼロワンブースター
- スタートアップからEXITやユニコーン企業までに導く
- ゆりかごから墓場まで
- 無から有を生み出す
- アウトプット
- シュターブ(startup+hub):スタートアップ誕生の中心。ハブは中心地という意)
- ステージ(startup+age):スタートアップが生まれる場所。ageは集まりという意)
- スタマニア(startup+mania):マニアは異常な熱中、熱狂。ネガティブワードのステマを連想してしまう
上の案ではいまいちだったので、ここからは「スタートアップからEXIT」を英語にしたstartup to exitの頭文字をとって「ste(ステ)」と読み替え、もじっていきました。もはや法則も何もありません。
- ステファン(Stefun):ste+fun。事業創造を楽しくやる
- ステップロード(Ste load):事業創造の道・歴史を作る 。ゲーム会社のブシロード的な
もじってもいい名前が出なかったので、SteやStellaから始まる英単語をwebioで引いていきました。Steで始まる単語で思いつくのはStellaですよね。スバルの自動車の名前だったりします。
その作業を続けていくと、運命的な出会いを果たします。
「stellar association(ステラーアソシエイション):誕生の起源を同じくする1000個の星の集団」
その瞬間、天啓が降りたのでした。
新規事業は「千三つ」と言われ、1000分の3がうまくいくと言われますが、1000個をうちを介して作る。しかも、星のように輝くイノベーティブな事業を作る。
これはキタぞと思いました(頭の中で、ジョンカビラの「キター」が聞こえました。)1か月半の試行錯誤の中で、初めてしっくりきました。
ただ、stellar associationでは長すぎるので、引き算を始めます。
- ステシア(Steacia ):「S」を「エス」と読み替えて。エステシャンぽい
- ステラエー:stellaのあとのassociationの頭文字を取る
- ステラエース:上記と同じ考え
- ステラシア
- ステラーズ
- ステラネーション
- ステラレーション
- エスネーション
- ステラアット
- セントアソシエ:stellaを「st」にして、セントと読み替える。教会とかで用いられる名前を参考
- セントエーション
- ステラアソシエ(stella associa):シンプルに短縮。
また、そうして辞書を引く中で「Stellify(ステリファイ):星に変える、スターにする」という素敵な言葉も見つけました。
最終的に、ステラアソシエ(Stella Associa)とステリファイ (Stelify)の一騎打ちになりました。
実は、創業メンバーの中では、ステリファイを推す人の方が多かったです。
理由は、「有名なサブスクリプションサービスの Spotify に似ていて覚えやすい」「語感がいい。おしゃれ」でした。
私も悩みましたが、以下の点でステラアソシエにしました。
- 意味として、ステラアソシエの方がビジョンに合致する
- コンサルティング会社というよりも、化粧品やアパレルブランド感があっておしゃれ、かつユニーク
- ステリファイはサービス名ならいいが、企業名としては名乗るには軽さを感じる。(大手企業の方に自己紹介する際)「ステリファイの保木です」と名乗ると、ウェブスタートアップが来たかのような印象を持つと想像しました。 王道でいたかったです。
意見が割れましたが多数決はせず、代表という(邪悪な)パワーを使って決め込みました。
こうして、2か月に渡るネーミング大戦争が幕を閉じたのでした。いかがでしたでしょうか。
弊社は、「ロジカルな思考プロセス+運」で出来上がりました。会社名も本気で考えると奥が深いと感じられたと思います。
ただ、考え抜くと名刺を渡したり、会社名を名乗る時に強い愛着が持てるので、時間が許す限り悩んでほしいと思います。
2022年8月追記
この記事で紹介した方法で新設会社のネーミングをご支援しました。
下記記事を参照ください。
会社名のネーミング発想法。コンサルタントだからこそできる「ネーミングサービス」の導入事例
担当コンサルタント
保木 佑介
RPAホールディングス(現オープングループ【6572】)にて、大手製造業が保有するR&D技術の出口探索を中心に100以上の新規事業プロジェクトに従事。2018年3月、RPAホールディングスのマザーズ上場を機として、同5月にステラアソシエを創業。2020年、No.1を証明する「ファーストテックサーチ」をリリースし、テレビCM等の根拠データとして利用される。その後、No.1調査の有識者としてNHK「クローズアップ現代」などに出演。