大企業は脱税している?2社を考察

大企業は脱税している?2社を考察

以下のような記事を見て、企業の節税・脱税について興味を持ちました。個人的に調べてみた今時点での理解を整理するためにアウトプットしてみようと思った次第です。

トヨタ自動車は、2015年3月期の連結決算で、グループの最終利益が2兆円を超えました。利益が2兆円を超えたのは、日本の企業としては初めてのことです。このトヨタ、2009年から2013年までの5年間、実は国内で法人税等を払っていませんでした。2014年3月期の決算発表の際に、豊田章男社長が衝撃的な発言をしたのを覚えている方も多いかもしれません。

「一番うれしいのは納税できること。社長になってから国内では税金を払っていなかった」この言葉に、度を失った人は多いのではないでしょうか? 日本最大の企業が、日本で税金を払っていなかったというのです。

純益2兆円なのに。トヨタが5年も法人税を免れた税法のカラクリ

税負担率の低い大企業2位のソフトバンクは税引前純利益788億8500万円をあげながら、法人税等支払額は500万円。実効税負担率は0.006%。

ソフトバンクは税金を500万円しか納めていない
目次

法人税とは

前提となる「法人税とは?」という部分を説明します。普段からIRを読んでいない方にはとっつきづらいので、個人に置き換えてみましょう。

会社員の方は額面と手取りについてはわかりますよね。額面は会社から支払われる本来の給料で、そこから社会保険料や住民税などの税金が差し引かれ、手取りになります。給料によりますが、1,000万円を超えるような高給取りでない限り、ざっくりと給料に対して20%が税金として引かれます。

法人税はこれと同じ仕組みです。会社の利益、つまり儲かった分に対して法人税がかかります。2019年時点の法人税(法定実効税率)は32%ほどです(この数字は年度によって少し変わります)。
※本記事では、国税、地方法人税、事業税、法人住民税も含めて法人税と括っています

つまり、1年間で1億円の利益を出すと、32%である3,200万円を税金として納めることになり、6,800万円が会社に残るというわけです。
この6,800万円はPLでは税引後当期純利益、BSでは純資産の利益剰余金(内部留保)にあたります。(PLは1年ごとにリセットされますが、BSは積み上げです。前年度までに蓄えた税引後当期純利益が、利益剰余金として積みあがります)
基礎を確認したところで、本題に戻ります。会社は30%の課税がされるはずですが、トヨタは法人税を払っていなかったり、ソフトバンクグループ(SoftBank Group Corp、以下SBG)は500万しか払っていないという指摘がされています。SBGは788億円の利益を出しているので、本当はその32%である約250億円を納税する必要があるはず。これ、かなり奇妙ですよね。
なぜ、こんなことができているのでしょうか?SBG、トヨタそれぞれについて考察します。

ホールディングス形態のソフトバンク

SBGはその主要子会社であるソフトバンク株式会社(携帯事業)をはじめ、子会社の株式を保有する持ち株会社(ホールディングス)です。ホールディングスという事業形態は、子会社が実事業を営み、子会社が売上を出し、子会社が法人税を支払った上で、残った利益の一部をホールディングスに上納する仕組みです(株式の配当)。ホールディングスは経営企画、総務等のバックオフィスしかおらず、売上は出しません。(外部への投資は行う)

ホールディングスに上納されるのは、子会社の税負担後の利益ですから、さらにホールディングスに税金をかけるのは二重課税になります。子会社にそれぞれに30%の課税がされて残った利益から、親会社のホールディングスに上納しています。なので、税負担がないのは当然です。

仮に、個人に適用したらどうなるでしょうか?夫の口座に振り込まれた税負担後の手取り収入を、妻が管理する家族の口座に一部移し替える際、妻の収入として追徴課税することになります。

自分の手取り収入から親への仕送りをするとしたら、親が受け取るところでも所得税がかかることになります。おかしいですよね。
※SBGは、上記以外の要因による申告漏れの指摘も受けています(アーム買収関連)。ただし、最終的に追徴課税はされなかったようなのでこれも当時は問題ではありません。

海外子会社を指摘されるトヨタ

トヨタが、5年間も税金を払っていなかった最大の理由は、「外国子会社からの受取配当の益金不算入」という制度です。これは、どういうことかというと、外国の子会社から配当を受け取った場合、その95%は課税対象から外される、ということです。

たとえば、ある企業が、外国子会社から1000億円の配当を受けたとします。この企業は、この1000億円の配当のうち、950億円を課税収入から除外できるのです。つまり、950億円の収入については、無税ということになるのです。

トヨタは詳細を公表していませんが、この「受取配当の非課税制度」を利用して、税金を免れていたことは明白です。ちょっと難しい言葉が出てきましたが、構造は先ほどのSBGと変わらないです。

トヨタ自動車はホールディングスではないですが、当然子会社をたくさん持っており、その子会社が海外にもあると(もちろんSBGも海外子会社はありますが)。

「その海外子会社が儲けた利益をトヨタが受け取る際に、法人税を納めていないのは何たることか」という批判です。

これもSBG同様におかしいと思います。なぜなら、海外の子会社は所在国の税法に則って税金を納めているからです。アメリカの子会社ならアメリカに税金を納め、インドならインドに納めているはずです。

つまり、その利益を日本の親会社であるトヨタ自動車に上納するときに、再度課税するのは二重課税です。SBG同様に、払わなくて当然です。(ちなみに、トヨタ批判の記事を書いた人は、元国税庁の人です。あとは察してください)

日本に海外企業が拠点を移していないという事実

ここまではトヨタやSBGが脱税しているというのはおかしいと書きましたが、逆説的なことを書いて終わりたいと思います。

仮に、日本は企業の税負担が低い国、節税がしやすい国だったとしたら、こぞって海外企業が日本に拠点を移すはずです。でも、そんなこと聞いたことはありません。

むしろ出ていく話の方が圧倒的に多いです。(もちろん税制面だけではなく、人口減少による内需縮小など複合要因)

そういう話で挙げられるのはシンガポールとかです。自国の産業が弱いことから、外国の企業を誘致して税金を落としてもらうために、税負担を含めてシンガポールに拠点を作りたいと思うような環境を作っています。

上記を踏まえると、大企業の税負担批判はどうなのかな、と感じています。特にソフトバンクの孫さんは在日韓国人ということもあって、日本に税を納めない「売国奴」とういような表現もされることありますが、ずれていると感じます。むしろこれだけ税金を納めてくれているので、感謝するべきです。

仮にトヨタ、ソフトバンクが日本の拠点をなくして海外に出てしまったら、困るのは私たちということですね。

業界経験豊富なコンサルタントが貴社をサポート

保木 佑介

大学時代、ヤフーグループにて求人サービスの立ち上げに関わり、サービスリリースから運用までの経験をする。RPAホールディングスにて、外資系セキュリティベンダーの営業改善プロジェクト等に長期インターンとして参画。正社員入社後は、大手製造業が保有するR&D技術の出口探索を中心に、100以上の新規事業プロジェクトに従事(主な担当業界は化学とSIer)。2018年3月、RPAホールディングスのマザーズ上場を機として、同5月にステラアソシエを創業。2020年、No.1を証明する「ファーストテックサーチ」をリリースし、テレビCM等の根拠データとして利用される。その後、No.1調査の有識者としてNHK「クローズアップ現代」などに出演。

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