【業界初調査事例】キリンビールが17年ぶりのスタンダードビール新ブランド立ち上げ
一番搾り、のどごし<生>、氷結など数々のヒット商品を手掛けるキリンビール。
そんなキリンビールが実に17年振りにスタンダードビールの新ブランド「晴れ風」を立ち上げる。
単なるビールではなく、ドネーションという一風変わった機能を有した商品をなぜ開発したのか、なぜ業界初調査を依頼したのかマーケティング担当者の小澤様に話を伺っていく。
【写真左から】キリンビール株式会社 マーケティング本部 マーケティング部 ビール類カテゴリー戦略担当 小澤 啓介、ステラアソシエ株式会社 代表 保木 佑介
17年振りにスタンダードビールの新ブランドを立ち上げる
― 早速ですが、17年ぶりに新ブランドを立ち上げることになった背景を教えてください。
小澤 2023年10月に酒税法が改正され、各ビールメーカーがこぞって狭義ビール新ブランドを強化しました。ビール類市場が縮小する中、酒税改正の影響で唯一「狭義ビールカテゴリー」は伸長しており、非常に重要なカテゴリーだと捉えています。
弊社には昭和から愛され続けている『キリンラガービール』や、30年を超え支持され続けるフラッグシップブランド『一番搾り』があります。
2026年の酒税法統一を見据えて、お客様の嗜好や価値観が大きく急速に変化している中で、これらとは異なる価値を持った、これからの時代に求められるビールをつくり『一番搾り』に次ぐ第2の柱・新定番ビールを作ろうというのが開発の背景です。
― 晴れ風はビールを普段飲まない方、若い方もターゲットにしていると思います。酒税改定に際して、サントリーはプレミアムモルツの新商品としてそよ風エールを出しており、ネーミングやパッケージからして晴れ風と同じようなターゲティングです。ビール離れと言われますが、そこに対してアプローチすることを各社狙っているのでしょうか。
小澤 若者を中心に「ビール離れ」が進んでいると言われています。20~30代を中心とした若年層においては「ビール⇒中高年が飲むもの=自分たち向けではない」というイメージが強いこと、味の苦さや重さから飲用を避けていることが調査を通じてわかりました。
さらに、以前はビールを好んで飲んでいた40〜50代の方でも「年齢とともにビールの味わいを重たく感じるようになってきた」という理由でサワーやハイボールへ移行してしまったお客様も多かったです。
― 小澤さんは今までどういった商品を担当されたんでしょうか。
小澤 「晴れ風」の前は、缶チューハイ商品「麒麟特製」ブランドを担当していました。
ー今回はビールになりますが、チューハイとの広報業務における違いはありましたか。
ビールであってもチューハイであっても、「お客様がそのカテゴリーに求めているインサイトを理解すること」「そのインサイトを満たす商品や広告を開発し、魅力的に伝えていくこと」は共通しています。
違いがあるとすれば、ビールはチューハイと比べると飲用されるお客様の人数が圧倒的に多く、各社大型商品の広告を大量出稿しているので競争環境は厳しいです。その中で、商品やブランドを常に「魅力的に」「新しく」見せていく必要があることです。
― 発売直後は一時的に出荷停止、晴れ風ACTIONの目標寄付金額も達成していますが、見込まれていた出荷数量を達成できている状況でしょうか。
小澤 はい。おかげさまで、想定以上に好調な滑り出しを達成できています。
晴れ風アクションを通じて日本の風物詩に恩返ししたい
― 晴れ風自体も新しい味、パッケージになりますが今回はドネーション(寄付)という一風変わった取り組みもしています。この企画背景を教えてください。
小澤 ビール業界は昔も今もテレビCMの出稿量が多い業界です。テレビCMに投資をして、店頭でも商品を大々的にディスプレイしていただければ、一定のトライアルや認知は獲得できていました。
我々も過去にヒットした商品から同様のラーニングを得ていたのですが、最近はそれだけではかつてのような手応えが得られなくなってきたと感じます。
その背景には、テレビを見る人口の減少や、情報過多の時代で広告が消費者の記憶に残りにくくなっていることなど、様々な要因があるのかもしれません。
ビールとしての「おいしさ」や広告で「目立つ」以外の要素で、お客様からの「共感」を得ることが新たな、ブランドや商品の選択理由になるのではないか?と考えて、ビールを飲むことでお客様が社会と繋がることができるドネーションの取り組みを取り入れました。
― 寄付を風物詩に絞った理由は何でしょうか。
小澤 ビールは日本の風物詩とともに親しまれてきました。お花見や花火大会といった場でビールを飲んでいただいていたと思います。
しかし昨今、日本人から永く愛されていきたその風物詩が存続の危機に至っています。
今回風物詩の保全を一緒に取り組む自治体パートナーを選定させていただくにあたり、桜や花火大会の課題を伺いましたが、どこも皆さん非常に苦労されていました。
例えば日本で多く植わっているのはソメイヨシノで寿命が60~70年だそうです。ソメイヨシノは戦後の復興時に植えられたものが多く、ちょうど寿命に差し掛かっています。
そこで点検や保全に多額の費用がかかるのですが、その費用を捻出することが難しい自治体も多いです。残念ながら保全ができず、実際に既に切り株になってしまった桜並木もあります。
「このような現状にある日本の風物詩に、ビールとして何か恩返しができないか?」
そんな思いから、寄付の対象を風物詩としています。
― 日本人であれば毎年お花見や花火大会を楽しみますし、自分が見ている桜並木や花火が無くなってしまうなら何かしたいと思う人はいるはずです。しかし直接桜を保全する費用や花火大会の運営費を支援することって難しいですよね。
小澤 そうですね。普段見ている桜並木が切株になってしまって、「何かしたい」と考えても実際に個人が直接支援する方法を探すなど、実際に行動をすることは結構難しいと思います。
毎日触れる身近な商品を通じて支援ができる場があると協力していただきやすいのではないでしょうか。
業界初の取り組みかどうか調査したかった
― なぜ第三者による調査を検討されたのでしょうか。
小澤 晴れ風ACTIONは通年商品で発売時からドネーションを行うものですが、過去の社内商品はもちろん他社でも同じような事例を見たことがありませんでした。
もし本取組みが今までにないものだとするとお客様により魅力的に商品や取り組みを伝えることができますし、大きな期待感をもっていただけると考えました。
―自社調べという選択肢もあったと思いますが、調査会社を選んだ理由を教えてください。
小澤 弊社は商品や広告開発に特化したお客様・市場調査の知見はありますが、今回のような過去の事例を網羅的に洗い出して調査するといったスキルやメンバーを有しておりません。そこで第三者による調査を検討しました。
―ステラアソシエ以外の調査会社も検討されたと思いますが、どういった判断基準で選定されましたか。
小澤 2つの軸がありました。
1つは網羅性です。酒類を含む飲料業界は非常に多くの商品事例が存在するため、、その中で今回のような事例が過去にあったのか網羅的に調べる必要がありました。
この点ステラアソシエさんは初回のお打ち合わせ時にどんな調査方法を取り、どのぐらいのカバー率になるか具体的にご提案いただけたので安心してご依頼できました。
2つ目はスピード感です。ブランドのローンチに向けて、マーケティング・広報活動も限られた短い期間で実行していく必要があり素早い調査を求めていました。
ステラアソシエさんは他社の調査会社よりも納期を短くしていただけたので助かりました。
保木 今回お話をいただいた際、全てのビールメーカーや飲料メーカーをリストアップして調査することはボリューム的に難しいと考えました。下手すると数万社あるからです。そこに商品数が掛け算となるととてつもない数になります。
そのため主要プレーヤーは個社別に調査し、それ以外は「コーヒー」「炭酸飲料」といった商品カテゴリー単位で見ていくことにしました。
若干大雑把なように思われそうですが、この調査方法でも競合のドネーション活動はヒットしてきたので短期間でも実行できると判断しました。
― 調査した結果同じような取り組みは無いという結果でした。こちらについてどう受け止めてますか。
小澤 お客様に対して「新しい取り組みなんだ」と自信をもってPRできるようになったことが良かったです。
メディア受けもよく、キー局や地方局含めて10局以上に本取組みを取り上げていただくこともできました。高い広報効果があったと振り返っています。
― 最後に晴れ風の展望について教えてください。
小澤 晴れ風ACTIONは、「晴れ風」というブランドが存続する限り続けていきたいと考えています。一過性のものではなく、商品誕生時から継続的なドネーションを行うことが、この商品のユニークなところであり、お客様や社会にとっての存在理由だと考えています。
まずは、春の桜、夏の花火大会を継続的に支援していきたいと思っています。
ブランドが大きくなっていくのに合わせて、ドネーションをする自治体を少しずつ増やしていくことで、晴れ風ACTIONの活動の輪を日本中に広げていきたいとも考えています。
お客様には晴れ風ACTIONに参加して頂き、ご自分が支援した桜や花火大会を見ながら晴れ風を飲んでいただく。「ちょっといいコトしたな」という気持ちで風物詩とビールを楽しむと特別な時間になると考えています。
キリンビールの渾身作である「晴れ風」、ぜひ多くのお客様に飲んでいただきたいですね。
業界経験豊富なコンサルタントが貴社をサポート
保木 佑介
大学時代、ヤフーグループにて求人サービスの立ち上げに関わりサービスリリースから運用までを経験。RPAホールディングス(現オープングループ【6572】)に入社後、大手製造業が保有するR&D技術の出口探索を中心に100以上の新規事業プロジェクトに従事(主な担当業界は化学とSIer)。2018年3月、RPAホールディングスのマザーズ上場を機として同5月にステラアソシエを創業。2020年、No.1を証明する「ファーストテックサーチ」をリリースし、テレビCM等の根拠データとして利用される。その後、No.1調査の有識者としてNHK「クローズアップ現代」に出演。
経験豊富なコンサルタントが戦略立案から施策実行まで伴走します
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