【決定版】市場調査の正しいやり方5ステップ|手順・手法の選び方・外注の判断軸まで解説

新規事業の立ち上げや既存事業のテコ入れにおいて、市場調査は事業の成否を分ける羅針盤として機能します。限られた予算と時間の中で「どのような手順で調査を進め、どこまで深掘りすれば精度の高いデータが得られるのか」と手が止まる実務担当者は少なくありません。調査データを漫然と集めるだけで終わらせず、意思決定を前進させるためには、正しい調査設計と手法の使い分けが求められます。

自社で実践できる具体的な調査手順から、内製の限界を見極めてプロに頼る判断基準まで、新規事業コンサルティング「ステラアソシエ」が日々の伴走支援で培ってきた実践的なノウハウを紐解きます。

市場調査とは?目的とマーケティングリサーチとの違い

市場調査を有効に活用するには、まずその役割や類似概念との違いを正しく整理しておく必要があります。

市場調査とマーケティングリサーチの違い

市場調査は、過去から現在までのデータを収集し、対象市場の「今の状態」を正確に把握する実務プロセスです。参入予定の市場における現在の取引規模や、競合他社が占めるシェア、すでに顕在化している顧客の不満などを客観的な数値やテキストとして可視化します。

対照的にマーケティングリサーチは、市場調査で得た確かな事実をもとに「未来の動向」を予測し、自社が次に打つべき施策を探索する一連の活動を指します(つまり、データからインサイトを抽出し、未来の戦略を構築することです)。事実をスナップショットとして切り取るのが市場調査であり、その写真から次に向かうべきルートを策定するのがマーケティングリサーチです。実務においては両者を明確に分断するのではなく、事実確認としての市場調査を土台とし、戦略立案としてのマーケティングリサーチへとシームレスに移行させます。

市場調査を実施する3つの主要目的

市場調査に投資する理由は、直感や思い込みによる事業判断のブレを防ぎ、勝率を引き上げることに集約されます。

1.参入予定の市場規模・成長性の把握

事業計画を策定する際、参入先の市場が自社の売上目標を達成できる規模を持っているかを確認します。官公庁の統計データや民間シンクタンクのレポートを活用し、過去5年間の市場推移から今後の成長カーブを予測します。成長期にある市場か、成熟して縮小傾向にある市場かを見極めることで、投下するリソースの妥当性を判断します。

2.ターゲット顧客のリアルなニーズやペルソナの明確化

商品やサービスが誰のどのような課題を解決するのかを解像度高く言語化します。年齢・性別・居住地といったデモグラフィック(人口統計学的)な属性に加え、購買の決め手や日々の生活習慣、価値観まで深掘りします。ファクトに基づいたペルソナ(理想の顧客像)を設定し、開発チームや営業チーム内で認識を統一します。

3.競合他社のシェア・強み・弱みの抽出

既存プレイヤーの製品ラインナップ、価格設定、プロモーション手法を分解します。競合の弱点や、既存顧客が抱いている不満を洗い出すことで、自社が優位に立てるポジション(競合がカバーしきれていない空白地帯)をピンポイントで狙い撃つ戦略を描き出します。

【5ステップ】失敗しない市場調査の基本的なやり方・進め方

市場調査で実効性の高いデータを集めるためには、事前準備から成果物の作成まで体系的な手順に沿って進める必要があります。

ステップ1:目的の定義と仮説の構築(最重要)

調査を開始する前に、「この調査によって何の意思決定を下すのか」を言語化します。新規参入の可否を決めるのか、製品の価格設定を見直すのか、目的によって集めるべきデータは一変します。

同時に、ビジネス上の「仮説」を立てます。「20代の単身世帯は、価格よりも調理時間の短さを重視しているはずだ」「既存のSaaSツールは多機能すぎて現場のリテラシーに合っていないはずだ」といった仮説です。仮説を置くことで調査項目がシャープになり、検証結果がYESでもNOでも明確なネクストアクションに直結します。

ステップ2:調査手法・対象者(サンプル)の決定

仮説を検証するために、誰からどのようなデータを集めるかを設計します。対象者の設定(スクリーニング)が粗いと、ノイズが混じり正確な分析ができません。「週に3回以上、コンビニで冷凍食品を買う30代女性」のように、条件を具体的に絞り込みます。

大まかな傾向を掴みたい場合はアンケートなどの定量調査、理由や背景を深掘りしたい場合はインタビューなどの定性調査を選びます。限られた予算とスケジュールの範囲内で、どの手法を組み合わせるのが最適かを逆算して計画を練り上げます。

ステップ3:調査票・インタビューガイドの作成と実施

調査票(アンケート画面の質問文)やインタビューガイド(質問の進行表)を作成します。ここで問われるのは、回答者を特定の回答へと誘導しない中立的な設問設計です。

「弊社の新機能は便利だと思いますか?」といった質問は、「はい」と答えやすくする誘導尋問になります。「新機能を使った率直な感想を教えてください」と中立的な表現にとどめます。アンケートの設問数は回答者の負担を考慮し、10問から15問程度に収め、途中の離脱を防ぎます。1つの設問で2つの要素を聞く「ダブルバーレル質問(例:デザインと価格に満足していますか?)」も排除します。

ステップ4:データの回収・集計・分析

集まったデータを整理し、意味のある情報へと加工します。定量データの場合、回答全体を集計する「単純集計」に加え、男女別や年齢別で回答傾向の違いを比較する「クロス集計」を実施します。クロス集計を行うことで、「全体ではAという意見が多いが、20代女性に限るとBの支持が圧倒的」といった隠れた事実を発見できます。

定性データ(インタビューの録音や発言録)の場合は、対象者の発言を文字起こしし、共通するキーワードや感情の変化を抽出します。ユーザーの行動背景にある心理を構造化し、初期に立てた仮説が立証されたか、あるいは覆されたかを見極めます。

ステップ5:レポート作成とアクションプランへの落とし込み

分析結果を関係者に共有するためのレポートにまとめます。良いレポートとは、単なる数値の羅列やグラフの報告書ではありません。「調査から何が分かったか(ファクト)」と、「そこから自社はどう動くべきか(示唆とアクションプラン)」がセットで提示されているものです。

「若年層の認知度が30%でした」で終わらせず、「認知度を引き上げるため、SNSでのショート動画配信に予算をシフトすべき」といった具体的な提案まで踏み込みます。調査結果を事業の推進力に変換して初めて、市場調査のプロセスが完結します。

主な市場調査の手法と使い分け【定量調査・定性調査】

解き明かしたい課題の性質に合わせて最適な調査手法を選定し、相互に組み合わせることが精度の高い分析につながります。

調査手法特徴適したシーン
定量調査数値で全体像を把握(Webアンケートなど)市場規模の推計、仮説の裏付け、認知度測定
定性調査背景や理由を深掘り(デプスインタビューなど)潜在ニーズの発見、仮説の立案、感情の理解
デスクリサーチ既存データを収集(官公庁統計・レポートなど)事前準備、マクロ環境の把握、業界動向の確認

【定量調査】数値で全体傾向やシェアを把握する手法

定量調査は「どれくらい(How many / How much)」を数値で把握するアプローチです。

主力のネットリサーチ(Webアンケート)は、調査会社のパネル(モニター)を活用し、短期間で数千件規模のサンプルを低コストで回収します。市場の全体像を掴むのに適しています。郵送調査は高齢者層などWebに不慣れな層へのリーチに有効です。会場調査(CLT)は、対象者を指定の会場に集め、未発売の製品パッケージを見せたり、試食品を味わってもらったりした直後に評価を数値化します。

【定性調査】ユーザーの感情や行動の「理由」を深掘りする手法

定性調査は「なぜ(Why)」をテキストや観察から解き明かします。

デプスインタビュー(1対1の面談)は、他人の目を気にせず本音を引き出せるため、高額商品やデリケートな商材、BtoBの業務課題など深層心理を探る際に使います。グループインタビュー(FGI)は、5〜6名を集めて座談会形式で行い、参加者同士の意見の相互作用(グループダイナミクス)から新しいアイデアを発見します。行動観察(エスノグラフィ)は、対象者の自宅や職場に出向き、製品を使っている様子を直接観察して、本人が無意識に行っている工夫やストレスを発見します。

【デスクリサーチ】官公庁データ・二次情報を効率よく集める方法

実地調査を行う前に必ず実施するのがデスクリサーチ(二次情報の収集)です。

総務省の「家計調査」や経済産業省の「工業統計」、各業界団体が発行するホワイトペーパーなど、すでに公開されている信頼性の高いデータをかき集めます。仮説を構築する段階で、無料で手に入るマクロデータ(市場全体の巨大なトレンドを示す数値)を徹底的に読み込むことで、その後のアンケートやインタビューで聞くべき質問がより高度になり、全体の調査コストを劇的に引き下げます。

ノウハウ公開!市場調査の精度を跳ね上げる3つの成功ポイント

集めたデータを単なる数値の報告に終わらせず、実際の意思決定に直結させるためには実践的なアプローチが欠かせません。

「仮説なき調査」に陥らないための事前設計

調査の精度は、事前の仮説構築で9割が決まります。仮説を持たずにアンケートを配信すると、あらゆる可能性を網羅しようとして設問が膨張し、回答者の疲労を招きます。結果として「どこにでもある当たり障りのないデータ」だけが残り、次の一手が打てません。「新商品のターゲット層は、既存品の手入れの手間に不満を持っているはずだ」という明確な的(まと)を置き、その的を射抜くための設問だけを研ぎ澄まします。

回答者のバイアス(思い込み・誘導)を排除する設計アプローチ

調査データを歪める最大の要因がバイアスです。質問の言い回しひとつで、回答は大きく変動します。「環境に優しい当社の製品に興味がありますか?」と聞けば、大半の人が「はい」と答えます(社会的望ましさバイアス)。

これを防ぐには、「製品を購入する際、あなたが重視する項目を3つ選んでください」とし、選択肢の中に「環境への配慮」を混ぜるアプローチを取ります。選択肢の並び順が上にあるものほど選ばれやすい傾向(順序効果)を排除するため、Webアンケートツール上で選択肢の順序をランダムに表示させる設定を必ず組み込みます。

一次情報と二次情報のベストな組み合わせ

精度の高い市場調査は、二次情報(デスクリサーチ)から一次情報(自社での独自調査)へと流れるルートをたどります。

官公庁のデータやシンクタンクのレポートなどの二次情報から、市場の全体像とマクロトレンドを把握します。そこで見つけた「データでは説明できない疑問点」や「新しく生まれた仮説」を持って、顧客への直接インタビュー(一次情報)へ向かいます。全体像を知らないままいきなり個別インタビューに飛び込むと、目の前の一人の特殊な意見を「市場全体の声」だと誤認するリスクが高まります。

自社(内製)でやるか外注するか?判断基準と内製の限界

社内リソースの活用とプロへの委託にはそれぞれ長短があり、プロジェクトの規模や求める精度に応じた見極めが求められます。

自社で市場調査を実施するメリットと限界

自社で市場調査を完結させる利点は、外部委託費を抑えられ、社内にノウハウが蓄積されることです。小規模なWebアンケートや既存顧客へのヒアリングであれば、無料ツールを活用してすぐに実行でき、スピード感のあるPDCAを回せます。

内製には明確な限界が存在します。最大の壁は「サンプルの偏り」です。自社のSNSフォロワーやメルマガ会員だけを対象にすると、すでに自社に好意的なファンの声しか集まらず、市場全体のリアルなニーズを見誤ります。複雑なクロス集計や定性データから深いインサイトを抽出するには高度な分析スキルが要求され、実務担当者のリソースを大きく圧迫します。

プロの市場調査会社・コンサルティングに依頼すべきタイミング

内製の限界を超えるタイミングが、外注を検討するターニングポイントです。数千万円から数億円規模の投資を伴う新規事業の立ち上げフェーズや、異業種への参入を検討する際は、第三者による客観的で精緻なデータが求められます。

経営層を納得させるための強力なファクトが必要な場合や、BtoBのニッチな領域で「決裁権を持つキーマン」へのインタビューが必要な場合、自社のコネクションだけでは限界に突き当たります。高度な戦略構築と客観性が事業の命運を分ける局面に直面したとき、プロの調査網と分析力に頼る判断が事業リスクを最小化します。

戦略立案から事業成長まで一貫支援する「ステラアソシエ」の市場調査

自社での調査に限界を感じた際や、より高度な事業戦略を構築したい場合には、専門パートナーの知見を活用するアプローチが極めて有効です。

市場調査の壁に直面し、事業を確実に前進させる強力なパートナーを探している場合、新規事業コンサルティング「ステラアソシエ」の伴走支援が解決策になります。日立製作所やLIXILなど、日系メーカーや東証プライム上場企業を中心に100件以上の新規事業プロジェクトを支援してきた実績を持ちます。

単なる「データ集め」で終わらせない戦略特化型コンサルティング

ステラアソシエの特徴は、調査を「単なるデータ納品」で終わらせない点です。調査の設計段階から経験豊富なコンサルタントが深く入り込み、クライアントの技術やアセットをどう活かすかという仮説を徹底的に練り上げます。国内外に広がる30万名以上のキーマンネットワークを活用し、自社では接触不可能な企業の決裁者や専門家に直接ヒアリングを行い、解像度の高い一次情報をもとに実効性の高い事業戦略を構築します。

課題抽出から実行支援までの伴走体制

「調査結果は出たが、次に何をすればいいか分からない」という状態を防ぐため、事業プランの策定からサービスの立ち上げ、営業支援に至るまで一気通貫で伴走します。仮説検証を短期間で回し、事業撤退やピボット(方向転換)の的確な判断基準を提供することで、無駄な投資を防ぎます。

自社での調査手法に限界を感じている方、または新規事業の立ち上げをスピーディーかつ確実に進めたい方は、事業成長を見据えたプロフェッショナルなリサーチと戦略構築を検討する価値があります。

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新規事業コンサルティング「ステラアソシエ」

まとめ

市場調査は、新規事業やマーケティング施策の成否を分ける強固な基盤です。目的と仮説を明確にし、定量・定性のアプローチを適切に組み合わせることで、顧客のリアルな声と市場の動向を正確に掴み取れます。調査設計の段階でバイアスを排除し、ファクトに基づいた意思決定を繰り返すことで、事業の成功確率は着実に引き上がります。

自社リソースだけではサンプルの偏りや高度な分析に限界が訪れる場面もあります。大規模な投資判断を伴うプロジェクトや、客観的かつ精緻な戦略構築が求められるフェーズでは、外部の専門家の知見を取り入れる選択肢が力を発揮します。自社のフェーズに合わせて最適なアプローチを選び、事業の成長を加速させてください。調査の枠を超えた伴走支援を求める際は、新規事業コンサルティング「ステラアソシエ」へご相談いただくことで、次なる突破口が見えてきます。

インサイドセールスとは?役割・テレアポとの違い・成功する立ち上げ手順を徹底解説

インサイドセールスを自社に導入したいと考えつつも、「従来のテレアポと何が違うのか」「どうすれば組織としてうまく機能するのか」と悩む声をよく耳にします。非対面で営業活動を行う内勤型営業のスタイルですが、その本質は単純なアポ取りではありません。購買プロセスがオンラインへ移行した現在、見込み顧客(リード)と持続的な関係を築き、良質な商談を生み出す中心的な役割として注目を集めています。基本的な意味や従来の営業スタイルとの明確な違い、具体的な立ち上げ手順や運用の落とし穴を紐解いていきましょう。事業成長を見据えた営業体制の強化や、成果につながる戦略設計を検討している場合は、新規事業コンサルティングのステラアソシエ株式会社の支援サービスもあわせてご活用ください。

インサイドセールスとは?基本的な意味と役割

インサイドセールスへの注目が高まる一方、現場ではその定義や従来のテレアポとの境界線が曖昧に捉えられがちです。基本的な意味合いと営業プロセス全体で果たす役割の明確化が、組織構築の第一歩となります。

インサイドセールスの定義と本来の目的

インサイドセールスとは、電話やメール、ウェブ会議システムなどを活用して、顧客と非対面でコミュニケーションを図る営業手法です。かつては外勤営業の補助的な役割として見なされることもありましたが、現在では独立した専門機能として多くのBtoB企業に導入されています。

インサイドセールスが担う本来の目的は「見込み顧客との長期的な関係構築(ナーチャリング)と、隠れた課題の抽出」です。獲得した名刺情報や資料請求の問い合わせに対し、すぐに商談へ進まない段階から情報提供やヒアリングを繰り返します。顧客の検討度合いが十分に高まったタイミングを見計らい、クロージングを担当する営業部門へとバトンを渡す役割を担っています。

従来の「テレアポ」との明確な違い

インサイドセールスと従来の「テレアポ(テレフォンアポイントメント)」は、電話を使う点においてよく混同されます。しかし、業務の目的や対象となる顧客、目指すべき成果指標は異なります。

テレアポは「アポイントの獲得件数」に比重を置く手法です。商品に興味がない相手も含め、リストをもとに一方的な架電を繰り返す「数撃ち当たる」アプローチが主流となります。一方でインサイドセールスは、「検討度の高い良質な商談を生み出すこと」が役割です。顧客が抱える経営課題や現在の検討フェーズを丁寧にヒアリングし、今すぐの面談が必要ないと判断した場合は、長期的なフォローの対象に切り替えます。

比較項目テレアポインサイドセールス
最終目的アポイント獲得件数の最大化高確度な商談(SQL)の創出と顧客育成
アプローチ対象名簿やリストに基づく不特定多数資料請求者や過去の商談顧客など
評価指標(KPI)架電数、アポ獲得件数有効商談創出数、案件化率、受注率
コミュニケーション一方的な案内と説得対話による課題抽出・情報提供

「フィールドセールス(外勤営業)」との役割分担

営業プロセスにおいて、インサイドセールスと対をなすのが「フィールドセールス(外勤営業)」です。多くの企業で導入されている営業の分業体制(The Model型)では、マーケティング部門が獲得したリードをインサイドセールスが引き受け、対話を通じて確度を引き上げます。その後、契約締結に向けた詳細な提案や見積もりの作成、クロージングをフィールドセールスが実行します。

役割を明確に分ける理由は、互いの専門性を深めて業務効率を高めるためです。フィールドセールスは移動や提案書の作成、高度な交渉に多くのリソースを割きます。アポイント獲得や定期フォローの役割をインサイドセールスが巻き取ることで、クロージングや顧客交渉という中核業務に集中できる体制が整います。

なぜ今インサイドセールスが重要視されているのか?(背景とメリット)

多くのBtoB企業がインサイドセールス部門の立ち上げを急ぐ背景には、従来の訪問営業だけでは成果が出にくい環境変化が存在します。顧客側の購買行動の変化と営業側のコスト構造の双方から、その必要性が浮かび上がります。

顧客の購買プロセスの変化とデジタル化・オンライン化

インサイドセールスが拡大した背景には、BtoB市場における買い手(企業担当者)の行動変化があります。現代のバイヤーは営業担当者に面会する前に、情報収集から製品比較までの大部分を終えているケースが目立ちます。米国Gartner社の調査でも、BtoBの買い手が購買プロセスで営業担当者と対面する時間はわずか17%程度に過ぎないというデータが報告されています。

顧客がオンライン上の情報のみで選択を絞り込む前に、早い段階から信頼関係を作り上げる仕組みが欠かせません。ウェビナーやオウンドメディアを通じた接触と合わせ、適切なタイミングでインサイドセールスが対話を重ねるプロセスが機能します。

営業活動の生産性向上とコスト削減

従来の訪問型営業スタイルには、移動時間や交通費といった不可視のコストがのしかかります。都内を回るだけでも1日5件から6件の訪問が限界となり、1件の商談に対するコストが高まりやすい側面があります。

内勤型のインサイドセールスであれば、物理的な移動時間は発生しません。電話やオンラインツールを活用することで、1日に数十件以上の見込み顧客と接点を持つことも可能です。限られた営業メンバーの時間を効率よく分配し、訪問するべき「本当に買う可能性がある顧客」へリソースを傾斜できます。

リード(見込み顧客)の放置防止と資産化

展示会やWeb広告に予算を投じて集めた名刺情報も、従来は「すぐに検討しない」と分かった瞬間から営業担当者の引き出しで眠ってしまう傾向がありました。今すぐ客のみを追い求める属人的な営業構造では、将来的な売上の種を自ら切り捨ててしまいます。

インサイドセールスは、「時期尚早」と判断した相手に対しても3か月後、半年後と定期的にメールや電話でコンタクトを取り続けます。「予算の時期が来た」「担当者の部署が変わった」といった状況の変化をいち早くキャッチし、適切なタイミングで商談へ進めます。これまで無駄にしていた顧客データを将来の資産へと変える取り組みです。

インサイドセールスの2つの型(SDR・BDR)と主な業務・KPI

インサイドセールスは、誰に対してアプローチを開始するかによって手法や目標設定が変化します。反響型と新規開拓型の役割の違いと、活動の質を可視化する指標を正しく理解する必要があります。

SDR(反響型・インバウンド)の特徴と業務内容

インサイドセールスの機能は、アプローチの起点によって「SDR(Sales Development Representative)」と「BDR(Business Development Representative)」の2つに大別されます。

SDRは、ウェブサイトからの資料請求やお問い合わせ、ウェビナーへ参加した見込み顧客に対応する「反響型(インバウンド)」の専門組織です。すでになんらかの形で自社に関心を持っている相手であるため、問い合わせからの「スピード」が極めて重要になります。数時間以内、場合によっては数分以内に初期対応を実施し、相手が何に困って資料をダウンロードしたのかを的確に言語化して商談を組み立てます。

BDR(新規開拓型・アウトバウンド)の特徴と業務内容

これに対しBDRは、自社製品の売上規模に大きな効果をもたらすターゲット企業(エンタープライズ企業など)を選定し、自発的に開拓する「新規開拓型(アウトバウンド)」の専門組織です。過去に接点がない企業へのアプローチが含まれるため、単なるテレアポとは異なる戦略的な設計を必要とします。

企業の有価証券報告書や業界動向を読み解き、部署や決裁者を特定したうえで、手紙やDM、個別のメール、電話を組み合わせた多角的なタッチを試みます。相手企業の課題を仮説として持ち込んで対話を開始するため、製品知識だけでなく高いビジネス理解が求められます。

成果を可視化する重要KPI(有効商談数・SQL化率など)

インサイドセールス組織の成果を伸ばすには、目的と合致した指標を可視化しなければなりません。「架電件数」や「メール送信数」といった活動量だけの管理は、手当たり次第にアポを組む動きを誘発します。評価軸として掲げるべき主な指標を確認しておきましょう。

  • 有効商談数(SQL:Sales Qualified Lead):フィールドセールスが「提案する価値がある」と認めた高品質なアポイントの数
  • 案件化率:創出した商談のなかで、具体的な見積もり提示や購買プロセスへの乗り換えへと進んだ比率
  • 受注貢献額・受注率:最終的に契約へと至った金額や受注した比率

「質の伴わない商談を50件渡す」ことよりも、「検討フェーズに進む有効商談を20件創出する」ことのほうが事業全体への貢献度を高めます。

成果が出るインサイドセールスの立ち上げ手順と成功のポイント

インサイドセールスを早期に戦力化させるためには、部署を設立する順番と事前のルール作りが成否を分けます。顧客像の明確化から運用ルールの言語化まで、現場に混乱を生ませないための実践手順を辿ります。

ステップ1:ターゲット(ICP/ペルソナ)の選定とカスタマージャーニー設計

立ち上げの初期段階で最優先に取り組むのは、「自社のサービスをもっとも必要とし、大きな価値を提供する理想の顧客像(ICP:Ideal Customer Profile)」の明確化です。業種、従業員数、年商、利用中のシステム環境などからターゲットを具体化します。

対象企業が決まったら、実際に現場で対応する人物の「ペルソナ(課長職、現場マネージャーなど)」と、その人物が認知から購入までを辿る「カスタマージャーニー」を描き出します。「現在どの段階にある読者なのか」によって投げかける質問を変えるため、トークスクリプトや質問設計の軸を作ります。

ステップ2:マーケティング・フィールドセールスとの「SLA(合意事項)」策定

分業型の営業体制において高い頻度で発生する問題が、部門間の対立です。これを防ぐためには、「SLA(Service Level Agreement:部門間の合意事項)」の明文化を避けて通れません。

例えば、インサイドセールスからフィールドセールスへパスする「有効商談(SQL)」の基準について、「予算・決済権・購入時期・ニーズ(BANT条件)のどの要素が確認できていれば合格とするか」を定義します。マーケティング部門からは「何点以上のスコアを持ったリードを引き渡すか(MQL:Marketing Qualified Lead)」を決め、各チームが果たすべき水準を共通のルールとして落とし込みます。

ステップ3:CRM・SFA・MAツールの環境構築とデータ入力ルール設計

インサイドセールスの強みは「情報」です。いつ誰と話したのか、どんな反応があったのかが顧客情報管理システム(CRM/SFA)やマーケティング自動化ツール(MA)へ残っていない場合、継続的なフォローは成立しません。

システムの導入を形骸化させないためには、「入力ルールの標準化とシンプル化」が必要です。面談後の記録において自由記述のメモ欄だけを用意すると、担当者ごとに情報のムラが生じます。確認すべき項目をプルダウン選択に設定し、ヒアリングした内容が数クリックで反映されるような環境を整えます。

インサイドセールス導入でよくある課題・失敗例と対策

仕組みを十分に作り込まずに導入を進めると、現場間で大きな摩擦や機能不全が生じるケースは珍しくありません。多くの企業が陥りやすいトラブルの傾向を掴んでおくことで、未然に失敗を防ぐ体制が整います。

「アポの数」だけを追いかけてフィールドセールスと対立する

導入直後に起きやすいトラブルとして、「アポ獲得数だけを目指すインサイドセールス」と「受注に繋がらない時間を奪われるフィールドセールス」の間に生じる対立があります。アポの獲得件数だけで評価されている担当者は、購買意欲の低い相手にも無理に面談を取り付けがちです。

対策として、インサイドセールスの評価制度の中に「案件化率」や「受注額への貢献率」を反映させます。営業部門と同じ「受注・売上の拡大」というゴールを共有させることで、アポイントの「質」を重視する活動に転換できます。

データ管理・引き継ぎの不備で顧客体験が損なわれる

商談の場へ移った際、フィールドセールスが「御社の課題を教えてください」と顧客へ同じ質問を繰り返す問題です。情報の連携が不十分だと、見込み顧客は「インサイドセールスと話したことが伝わっていない」と不信感を抱きます。

この課題を解消するには、CRM上での引き継ぎフォーマットの定型化が有効です。「現在利用中の競合ツール」「検討の背景」「解決したい課題」「次回面談での希望アジェンダ」などを記載するテンプレートを設けます。事前の対話ログを見れば顧客の背景が一目で把握できる仕組みを作ります。

ノウハウとリソース不足で立ち上がらない・属人化する

インサイドセールスを「営業を外れた社員の一時的なポスト」や「新入社員の電話練習の場」と位置づけてしまうと、技術は蓄積しません。スクリプトを読み上げるだけの単純作業になり、顧客が抱える複雑な課題を深掘りすることが困難になります。

成果の再現性を高めるためには、優秀な担当者の質問パターンや反論切り返しをテキスト化し、チーム全体の知見とする「型化」が欠かせません。また、ノウハウが十分にない立ち上げ初期においては、外部パートナーを戦略的に活用し、知見を取り入れながら体制を築いていく方法も選択肢となります。

【自社訴求】インサイドセールスの立ち上げ・成果最大化なら「ステラアソシエ」へ

インサイドセールスの組織構築には、戦略策定からオペレーション設計、現場への定着まで多彩なノウハウが求められます。自社のみでの推進やリソース不足に課題を抱える組織には、実績ある支援パートナーの活用が有効な選択肢となります。

ステラアソシエのセールス支援サービスの特徴

営業組織の進化に向けた仕組みづくりや新規獲得の仕組みを模索しているのなら、私たち新規事業コンサルティングのステラアソシエ株式会社の支援サービスをご活用ください。

私たちは、単純な架電代行や人数合わせの「アポ取り専門部隊」ではありません。大手企業を中心とした100件以上の支援プロジェクトや30万名に及ぶキーマンネットワークの活用を通じて、企業の「売り方」そのものを設計・改革してきました。事業拡大の要となる新規事業コンサルティング、ターゲット戦略、セールスの実行支援をシームレスに組み合わせています。

戦略策定から実行・自走化(仕組み化)までの伴走体制

ステラアソシエは、机上の空論としての戦略提示にとどまりません。インサイドセールスを事業と戦略の中核へ据えるため、以下のプロセスで企業の営業活動を支援します。

  • 市場・顧客調査とターゲット領域の特定:商品価値とニーズが合致する業種や企業を精密に抽出
  • 決裁者へ接続するスクリプトと戦略構築:自社ネットワークやナレッジを活用した高確度なアプローチの設計
  • 自走化を見据えたナレッジの型化・移行:プロジェクト成果を企業内の資産として定着させるための業務設計とKPI管理の整備

自社のみで手探りの立ち上げを進めて時間を空費するのではなく、事業拡大と営業推進を知り尽くしたチームと伴走することで、確実な立ち上げと成果創出への距離を縮めることが可能です。

まとめ:インサイドセールスを正しく機能させ、営業組織を強化しよう

インサイドセールスは、非対面でのアプローチを通じて見込み顧客を育成し、高確度な商談を創出するための独立した専門機能です。これまでのポイントを踏まえ、自社組織を進化させるための視点を整理します。

本記事の重要ポイントをおさらい

インサイドセールスは、非対面で顧客とコミュニケーションを構築し、見込み顧客を質の高い商談へと育成していく重要なセールス機能です。今回解説したポイントを確認しておきましょう。

  • インサイドセールスはアポ数獲得を目指す「テレアポ」とは異なり、中長期的な関係構築と課題抽出を主目的とする
  • SFA/CRMを中心とした活動データの可視化と、適切なKPI(有効商談数・案件化率)の設定が必要となる
  • マーケティング・フィールドセールスとの間で作る明確なルール(SLA)の言語化が部門間対立を回避する

まずは自社の営業プロセスを見直すことから始めよう

自社の営業組織で「誰が・どのように見込み顧客と関係を作り、どの段階で商談に移しているか」を可視化することから始めましょう。従来のやり方に依存せずプロセスを明確に仕分けることで、活動の無駄が減り、提案のスピードを上げることができます。

営業の仕組み化、新規の開拓手法やターゲットの策定において悩みを抱えている場合は、新規事業コンサルティングのステラアソシエ株式会社への相談を検討してください。戦略の設計から成果が出る体制の定着まで、自社に即した道筋を一緒に描いていきます。

No.1広告に関するNHKの取材を記事化。「No.1調査は70点の商品を100点にすることではない」と語った真意とは?

【写真左から】
日本放送協会(NHK)報道局 取材センター 科学・文化部 島田尚朗氏
ステラアソシエ株式会社 代表取締役社長 保木佑介

2022年5月17日、NHK『クローズアップ現代』においてNo.1広告やNo.1調査をテーマとした番組が放送されました。No1調査のテレビ番組は初だったので、反響も大きかったです。

番組の放送に併せて解説記事「クローズアップ現代を視聴してNo.1調査の実態を詳しく知りたい方へ」を公開しましたが、番組では時間の都合もありNHKからの事前取材でお伝えできていないことが多く残っています。

そこで今回は、NHKの島田記者(以下、島田)にインタビューいただいた内容を記事化し、No.1広告が孕んでいる問題点や広告主となる企業がNo.1調査を広告に活用する際に留意すべき事項をお伝えします。

No.1調査は正しい情報発信のための保険商品

島田 まずはNo.1調査、No.1広告とは何なのか教えてください。

保木 No.1広告は「分かりづらい凄い技術を一瞬で理解させるもの」と捉えています。例えば、スマホの画面の明るさが2000nit(シャープ様の支援事例)と言われてもピンと来る人はいないですが、”スマホ史上No.1の明るさ” と言われれば「画面が明るくて視認性がいいんだ」と誰でも分かりますよね。

ストレートに伝えるとよくわからないものを、No1と表現することで商品の特徴を簡単に伝えることができます。その証明をするのがNo.1調査ということになります。

島田 そのNo.1調査に取り組み始めた背景についてお聞かせください。

保木 ステラアソシエはもともと大企業向けの新規事業コンサルティング会社なのですが、支援の一環として競合企業調査をよく行っています。

この競合調査を進める中で、「No.1訴求や日本初、世界初といった訴求を行えないか検討しており調査出来ないか?」と要望をいただくようになりました。No1を証明すること自体に需要があることが分かったので、2年前から新サービスとして『ファーストテックサーチ』を提供し始めました。

島田 『ファーストテックサーチ』へのお問い合わせは年間どのくらいの相談があるのでしょうか?

保木 年間で約50件ほどで、過去と比較して大きく増加しています。相談いただく企業様は大企業が70%、それ以外の企業様が30%なのに加えて、BtoC向けの商材が調査テーマになることが多いです。

島田 なるほど。お問い合わせいただく企業様に特徴はありますか?

保木 傾向としては、大企業様の場合は情報発信に対する責任や世間からの目が厳しくなることに加え、社内の法務部といった別部署からリスク回避の目的で確認が入ることが多いこともあり、相談いただくケースが多いです。また、中小企業様の場合は、消費者に正しい情報発信をしたいと真面目に努力されていらっしゃる会社さんなことがほとんどですね。

いずれにせよ、お問い合わせいただける企業様のほとんどは「自社が本当に一番かどうか、日本初や世界初であるか不安」を感じて相談いただくことが多く、保険としての意味合いが強いですね。

No.1調査には”適切な調査設計”が欠かせない

島田 具体的にNo.1調査はどのように進めるのでしょうか?

保木 No.1調査は、特定の指標において消費者または競合について調査し、製品やサービスが市場の中で1番であることを証明する市場調査のことを指しますが、大きく分けるとイメージ調査のような定性的なものと「日本初」や「世界初」などの元祖表記を扱う定量的なものの2つが存在します。

『ファーストテックサーチ』の場合は、定性的なイメージ調査ではなく元祖表記のような定量的な市場調査を専門に行っており、依頼主様からどんなキャッチコピーでNo.1を表記されたいか決めて頂いてから、それが証明できうる調査要件を提案しています。

調査方法はインターネットを利用した調査が多いですが、場合によっては企業に問い合わせすることもあります。また、2000年以前などインターネットが今より普及していない時代の調査を行う場合、過去の発刊物を国立図書館で調べたりすることもあります。

調査の方針として、調査結果の公平さを担保しやすい誰でもアクセスできる情報からアプローチを行い、そこからアクセスしにくい情報も加味しており、どうしても情報がない場合は、情報がないものとして扱っています。

島田 1度のNo.1調査でどのくらいの対象数を調べていますか?

保木 どのくらい調査を行うべきかは、対象となる商材や調査条件次第です。先述したシャープ様の『AQUOS R6』に関するNo.1調査の調査項目はスマホの画面の明るさでした。

調査設計では、画面の明るさを調査するのにこれまでに出たスマートフォン全てを対象とする必要はないと考えました。10年前のスマホよりも直近に発売されたスマホの方が画面が明るくなっているのは自明の理ですよね。

直近2年以内にリリースされた機種を対象とすれば問題なく調査を行えますし、各メーカーのハイエンドモデルが輝度が最も高い機種であり、直近2年以内にリリースされた各メーカーのハイエンドモデルを対象にすれば調査要件を満たせます。

このように商材やサービスによって調査対象は変動しますが、過去の案件ではおおよそ数十件〜数百件ほどでしたね。

調査数が多いほど信頼性は増しますが、must have ではなく nice to have の範囲まで含めると調査コストが膨大になります。依頼主様のご予算の範囲で最大の効果が出るよう、商材と当該市場の特性を踏まえて調査設計をしています。

No.1広告が抱える様々な問題

島田 少し切り込んだ話をしたいのですが、「No.1を保証してくれ」といった相談もあるのでしょうか?

保木 過去にいただいたお問い合わせの中で、そのような相談はいくつかありました。例えば、「イメージ調査を依頼したい」というお問い合わせは定期的にいただきますが、「返金保証はあるのか?」と質問されることも少なくありません。返金保証とは、調査した結果No2以下だった場合、費用を支払わないということですね。

島田 やはり、そのような相談はあるんですね。

保木 そうですね。ちなみにですが、これまで一貫して「返金保証は対応していない」と回答してきているのですが、対応していないことをお伝えするとすべて案件相談がなかったことになりました。笑

島田 保木さんが一貫して返金を保証してこなかったのには、どのような理由があるのでしょうか?

保木 そもそもの前提として、その商品やサービスがNo.1や日本初/世界発であるかはその企業が努力することで得られる結果であって、調査会社が作り出すものではありません。No.1調査は70点の商品を100点に仕立て上げることではないと考えています。

島田 たしかに、サービスの品質以上の評価を調査会社が生み出してしまう違和感があります。

保木 フェアな調査を行えば依頼主様の商品やサービスがNo.1ではないこともあり得ますよね。でも、依頼主様の商品がNo.1になるように努力するのは依頼主様自身のはずです。

調査会社としてできることは、消費者を騙すことにならない範囲でNo.1が証明できる調査設計を考案することです。

島田 やはり、恣意的な調査をもとにしたNo.1広告は多いのでしょうか?

保木 これは個人的な見解ですが、広告主の企業規模が大きくないほど調査元や調査方法が不明であったり、自社調べと表記している場合が多い印象があります。

ちなみに、No.1調査には複数の調査方法があり、たとえば満足度調査やイメージ調査はネット上でのモニター調査を通じて簡単に実施可能なので利用されるケースが多い一方で、唯一性を担保するような調査は相対的に難しく、専門的な技術への理解やキャッチアップが求められるので難易度が上がります。

なので、満足度調査やイメージ調査などモニターやパネラー調査を行うことが一般的に多いのですが、これらの手法では調査結果を意図的にコントロールしているような場合も見受けられます。

島田 意図的にコントロールとはどういうことなのでしょうか?

保木 例えば、モニターに登録している人たちは、しっかり考えてアンケートに回答しているわけでなく、気軽に選択肢をポチポチ選んで答えていることが多いです。

なので、想定している回答が得られるように質問項目や選択肢を設計することで、気軽にポチポチ回答している人たちの回答を誘導したりすることも実態として可能となってしまっています。

島田 なるほど。モニターの方々がそこまで意識せずに回答しているものをNo.1広告に利用したりもしているのですね。

保木 そうです。また、サイトイメージ調査も問題となっています。これはモニターに「このホームページは良いと思いますか?」などといったサービスとは直接関係のない質問を投げて、その回答結果を活用したものです。

実例として、このNo.1広告の画像を見ていただきたいのですが、このサービス自体の評価が高いという見せ方をしていますが、注釈で小さく「サイト比較イメージ調査」と書いてありますよね。下部にある注釈はほとんど読まれることはありませんし、これは意図的な誤認を狙ったNo.1広告のよくある手法です。

島田 たしかに私も注釈をそんなに見ることはないですし、これは勘違いしてしまいますね。。

保木 ちなみにもっと悪質なサイトイメージ調査もあって、「良いと思う」が70%を超えたのでNo.1を謳うみたいなケースも少なくありません。

島田 そんなことが。。それって問題ないんですか?

保木 当然このようなNo.1広告は問題であり、企業はこのようなNo.1広告が自社ブランドの毀損につながることを認識すべきです。

他にも、そもそも回答者がサービスを使ったことがないこともあれば、自社にとって都合の良い回答をする傾向が高い層だけをターゲットに調査を行うみたいなパターンも存在しますし、データが同じでも恣意的な切り取り方によって印象操作されている場合などもあったりするのが今の業界の実態です。

不正なNo.1調査を行う会社に依頼しないリテラシーが必要

島田 先ほどご紹介いただいたような恣意的なNo.1調査や優良誤認を引き起こすNo.1広告はなぜなくならないのでしょうか?

保木 一つは、不正なNo.1広告が問題化しにくかったことが挙げられます。

例えば、適切ではないNo.1広告のエステサロンを利用した際に、サービス自体が提供されていれば他のサロンと比較してクレームを入れる消費者はほとんどいません。

つまり、期待される効果と実際のサービスの間で大きなギャップがなければ問題になりにくいというのが実情ですし、誰もが知っているような企業や商品でないとそこまで注目もされません。

島田 なるほど。ただ、それ以外にも問題はありそうですね。

保木  加えて、やはりNo.1広告の販促面での効果は大きいです。公正取引委員会が出しているデータでは、約80%がNo.1広告に対してポジティブな印象を受けているという報告もあり、イメージ調査のような意味のない根拠をもとにした表記をする企業が後を絶ちません。

他にも、無理やりNo.1をとる調査会社があることも問題視されています。

島田 たしか、業界団体も問題視されていますよね?

保木 はい、2022年1月には日本マーケティング・リサーチ協会が『非公正な「No.1 調査」への抗議状』を公開したことで話題となりました

No.1を取得できなければ全額返金というあり得ない規定を設けている調査会社もあり、そのような不正を行う企業に発注してしまわないようなリテラシーを身につけることも企業には求められています。

島田 なるほど。企業が消費者に対して出来ることは何かあるのでしょうか?

保木 例えば、企業が広告主として広告にNo.1表示をする場合、調査の注釈を適切につけることは大事だと考えています。

もちろん、根拠となるデータを掲載するのが理想なのかもしれませんが、ほとんどの消費者は細かいデータまでは気にしていませんし、お問い合わせをいただいた場合に根拠となるデータを提示できる準備が出来ていれば大きな問題にはなりません。

このような背景から、ステラアソシエの『ファーストテックサーチ』は、根拠となるデータ提示のフォローまで行っています。

不審なNo.1広告はむしろブランド価値を下げる

島田 消費者がNo.1広告に対して不信感を持つことも増えてきていますよね?

保木  たしかにNo.1広告に対して不信感を持つ消費者は増えているとは感じます。

実態として「顧客満足度No.1」「モデルが使いたいと思う商品No.1」等のイメージ調査をもとにしたNo.1l広告を活用している商材で適切な調査をしているものは肌感覚で全体の1割程度です。

島田  そんなに少ないんですね。。そこまで少ないと、信用するのはなかなか難しいです。

保木 ただ、規制や世間の注目が集まることも踏まえると、ちゃんとした調査を行うべき人たちが然るべき調査会社に依頼する流れが生まれることで、適切ではない調査による表記が淘汰されることで、消費者からの信頼を取り戻すことを業界全体として取り組んでいかなけれなと考えています。

また、No.1調査の効果は売上への寄与だけではありません。

島田 その話、気になります。

保木 具体的な例を挙げると、これはビジョン様の事例なのですが、調査結果をもとに自社でしか謳えないセールスコピーを作成できるようになったり、社内の共通言語としてスムーズな社内コミュニケーションにつながったというお声をいただいています。

シャープ様では、販売店への営業(代理店営業)をする方が商品のウリを説明しやすくなりました。スマホはコモディティ化がされており、差別化が難しいため「業界初のスマホ」と伝えられると販売店の反応が違うわけです。

また、自分たちのサービスが日本初だったりNo.1であることは、サービスに関わっている社員の方々のモチベーションにつながるというお声も多いです。特に開発に携わった技術者は「自分がNo1の商品を作った」という自信に繋がるのはポジティブな効果ですよね。

島田 もしかしたら、売上以上の価値が適切なNo.1調査にはあるのかもしれませんね。

保木 副次的な効果が複数あります。

一方、結果がNo1ではなかった場合に調査が無駄だったのかというと、全くそうではないと言えます。大前提として広告は正しい使い方をしないと、多大な予算を投下していながらマイナスに働くこともある諸刃の剣です。特にSNSが発達し、違和感のある広告を一般ユーザーが発見し、それが拡散され炎上するという流れができてしまいました。

仮に適切な調査を行わずにNo1広告をエイヤで出したとして、競合企業やユーザーから「この広告はおかしい」と指摘されたらどうなるでしょうか。
当然、企業イメージが低下しユーザーは離れてしまいますよね。このようなリスクを取り除き、ブランドイメージを守ることがNo1調査の存在意義です。もちろん、調査の結果No1を謳えるのがベストですが、もっと重要なのは広告を正しく利用する手助けをすることです。

実際に、エステサロンPMKに対する消費者庁からの景品表示法 措置命令では、最終的に措置命令を受けたのは委託先の調査会社ではなく、その結果を利用した広告主であるPMK社でした。この件はどういうパワーバランスで起きたのかは当事者しか分かりませんが、少なくとも調査依頼を受けた企業は依頼主が広告を正しく利用する手助けができてないですよね。No1広告を出すことが目的になっているわけです。

そのため、No.1調査などを行う調査会社が適切な調査のみを取り扱うようになることも大事ですが、まずは各企業がリテラシーを高めることで、適切なNo.1調査を依頼し、自社のブランディングに寄与するNo.1広告を行えるようになることが重要だと考えています。

島田 たしかに、企業が「不正なNo.1広告は自社ブランドを毀損する」という認識をちゃんと持つことが最初の一歩なのかもしれませんね。

保木さん、本日はインタビューを実施させていただき、ありがとうございました。