【弁護士監修】顧客満足度No.1を悪用する企業に消費者庁がメス 利用者にアンケートを取らない満足度調査の実態とは

顧客満足度No.1が景品表示法違反に

2023年1月12日付けで、家庭教師サービスやeラーニングを提供する株式会社バンザンに対し消費者庁が景品表示法に基づく措置命令を出しました。以下がリリース抜粋です。

https://www.caa.go.jp/notice/assets/representation_cms207_230112_01.pdf

自社のウェブサイトにて、「オンライン家庭教師で利用者満足度No.1に選ばれました!」、「第1位オンライン家庭教師 利用者満足度」等と表示していました。

しかし、バンザンが委託した事業者による調査は、回答者にバンザン社のサービスの利用有無を確認することなく実施したものでした。つまり、バンザン社が提供するサービスを利用していないにも関わらず、「満足した」という回答を得て、No.1を掲載していたということです。

なぜこのようなことが起こったのでしょうか。

利用者以外にアンケート取る満足度調査の常習化

ECサイトやお店で買い物をするときや、電車のつり広告など至る所に「満足度No.1」という広告文は溢れています。

しかし、そのほとんどが利用者にアンケートを取っていない事実をご存知でしょうか?数字で言えば、8~9割の満足度No.1は利用者にアンケートを取っていません。

なぜこのようなことが起きているのでしょうか。

一言で言えば、利用者に対して満足度を調査してしまうとNo.1と言えない可能性があるからです。

当たり前ですよね。あらゆるサービスが満足されるわけではありませんし、あらゆるサービスがNo.1をとれるわけはありません。

今回の件でいうなら、家庭教師やeラーニングを提供する企業は大手から中小まで数多あり、その中でNo.1と言い切るには非常に難しいはずです。

それにも関わらず、No.1を表記することが目的化し、必ずNo.1をとれる方法で調査を行ってしまう。それが実態です。

特に問題なのは、調査を依頼する企業だけではなく、調査会社がこのような調査方法を善しとしていることです。

弊メディアで確認する限り、今回のような利用者以外にアンケートを取ってNo.1と表記している企業は少なくとも数社存在します。

こういった企業は、問い合わせフォームなどに「あなたの会社でもNo.1が必ず取れます!」という営業をかけてきます。悪質な方法でNo.1をばらまいているということです。

このことはNo.1調査や景品表示法に詳しい人であれば誰もが知っていることでしたが、2023年の1月に行政による初めてのメスが入り大きな変化を迎えています。

景表法に詳しい弁護士の見解

景品表示法に詳しい木村智博弁護士は、本件について以下のようにコメントしています。

埼玉県が過去に同じような措置命令を出していて、県の担当者と話をした際、イメージ調査しかしていないにもかかわらず、顧客でないと評価できないような項目に回答させ、その結果をもって顧客満足度No1などと表示することを、かなり問題視していました。それこそ、絶対に許容できないというレベルでした。

ここは、消費者庁とは温度差があると思っていたのですが、今回の措置命令によって、国レベルでもこのような表示が規制されることが分かったので、今後は、No1表示の許容範囲を明らかにした上での広告表示が求められるように思います。

難しいのは、景品表示法違反になるためには、No1表示に根拠がないことに加え、それにより商品役務の内容又は取引条件に関し、著しい優良性又は著しい有利性を示していることが必要なので、NO1表示それ自体又はそれと他の表示を併せた全体から見て、著しい優良性や著しい有利性を示していると評価できるかどうかを判断しないといけない点にあります。

公正取引委員会の出した過去の見解によると、顧客満足度という項目は、それ自体で優良性を直接示すとされているので、それが“著しい”優良性を示すかが問題となり、個別学習塾のようなものは、顧客満足度というものが選択の重要な指標になるといえるので、措置命令に至りやすいといえるように思います。逆に、例えば健康食品の効果が問題になるような商品の場合は、直接効果効能を示さない顧客満足度という表示のもつ意味が小さくなりうるので、著しく優良であると示す表示とまではいえないとして、措置命令までには至らないこともありえます。

景品表示法で行政処分の対象になるには、「①自己の供給する商品又は役務の取引」を「②表示した場合」に限られます。私は①を自己供給要件、②を表示行為要件と呼んで整理しています。

②の要件については、表示内容の決定に関与した場合には、直接自分で表示していなくても該当しますが、①の要件は、自分も供給しているといえない限り該当しません。そのため、広告代理店や調査会社は、通常①の要件は見たなさないということになります。

景表法に違反すると広告主が罰せられるが調査会社は罰されない

今回、処分されたのは広告主である株式会社バンザンであり、調査元の日本トレンドリサーチ(運営:株式会社NEXER)は処分されていません。今回に限らず、過去の景表法違反の事例でも基本的に広告主に対する処分となっています。

木村弁護士の解説にある通り、最上級表現を行う商品やサービスを調査会社も一緒になって提供していない限りは表示主体にならないためです。

この事実は顧客満足度No.1はじめ、日本初や世界初など最上級表現を広告に活用しようとしている企業は肝に銘じておく必要があるでしょう。いくら広告の注釈に「○○会社調べ」と第三者機関の名称が入っていたとしても、その広告が違反した場合の損害の全ては広告主が受けるということです。

今後は表示主体を問わず、調査に関与した調査会社にも責任が及ぶという変化が起きる可能性はありますが、現運用は「広告主だけがリスクを負う」ということは最上級表現を利用する全ての広告主が知るべき重要な情報になります。

顧客満足度No.1調査の今後

今回の消費者庁のリリースには、30ページ以上にも渡って措置命令の対象となるウェブページの情報が掲載されています。

また、テレビニュースでも取り上げられ、SNSでも話題になったことから企業イメージダウン、顧客離れが起きることは間違いないでしょう。

木村弁護士の見解の通り、少なくとも顧客満足度が購買行動に影響を与える商材についての広告表記は厳しくなることは間違いありません。

ただ、No.1を掲載したい企業からすると自社の商材はどの程度確からしい調査をするべきなのか、どこまでやれば安全なのか事業者が判断をすることは難しいです。

2022年にエステサロンに対して景品表示法の措置命令が出たこともあり、行政や消費者の目は厳しくなっています。

一方で、No.1広告自体が悪いものではないことから、利用を検討されている企業様は適切な判断ができる調査会社に相談をされることをお勧めします。

(本記事は、No.1調査.comと木村智博弁護士による共同執筆です。)

弁護士

木村 智博埼玉弁護士会)
木村・東谷法律事務所

消費者庁表示対策課課長補佐などを経て、2015年に木村・東谷法律事務所設立。埼玉消費者被害をなくす会検討委員を現任するなど、景品表示法に詳しい。

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